そのご


「あーお腹いっぱい」

満腹で満足で言いながら食器を片づける。

「そうだね。結構たくさん買ってきたもんね」

優しく目を細める優斗さんとふたりキッチンに並ぶ。
外食もいいけどやっぱりふたりっきりでゆっくりってのもいいよな。
食後のデザートは俺〜なんてことも言えるんだし。
なんていう親父ギャグ考えて、デザートって言えばと肝心なこと思い出した。
そうだよ、今日はバレンタインデーだよ!
デザートに渡せばいいんだよ!
皿はいま食洗機につっこんでていってるし、俺がコーヒーいれてあげて!
ちょうどいいよな。
あーでも緊張するな、手づくりだし。

「優斗さん、俺コーヒーいれるね」
「うん、ありがとう」

優斗さんが手際良く皿を食洗機に並べていっているとなりでコーヒーの準備をする。
インスタントもあるけど豆もある。
俺の手作りチョコに美味しいコーヒーじゃ釣り合わないかなぁ。
ちょっとだけ心配だけど最近コーヒー淹れるのも上達してきた気がするから丁寧に豆を挽いて用意することにした。


***


「おまたせ〜」

先に片付けを終えてリビングにいる優斗さんのもとへコーヒーを持っていく。
ソファーに座った優斗さんの前にカップを置きながら、テーブルに乗った四角い箱に気づいた。
そして視界にはいる優斗さんの傍らにある一輪の赤い薔薇。
―――ん? まさか。
優斗さんのとなりに腰をおろしながら視線が重なって、「捺くん」と甘い声に呼ばれる。
そして「はい」と差し出される薔薇。

「今日はバレンタインだよね。花をもらっても困るかなと思ったんだけど一輪だけ」

卒業式で貰ったことしかない。
赤い薔薇は綺麗で、一輪だけでもすごく存在感がある。

「捺くん、大好きだよ」
「あ、ありがとう。俺も大好きっ」

そういや女の子からチョコレート渡すのは日本だけで海外では恋人や親しい人に花やカードを贈るってテレビで見た気がする。

「それとこれはチョコレート」

続けて渡された上等そうで英語かなにかロゴが入った包装紙に包まれた長方形の箱。

「ありがとう! 開けていい?」
「もちろん」

バレンタインチョコは毎年たくさんもらうけど、優斗さんからのってのは特別だ。
もらえるなんて思ってなかった分びっくりだし、すっげぇ嬉しい。
ラッピングをといて箱を開けると15個くらいのいろんなデザインのチョコが入っていた。

「うわーうまそう!!」

どれも美味しそうで適当に一つつまんで食べてみた。
思っていたよりも甘くないチョコは中が柔らかくってちょっとだけオレンジの風味がした。

「うまい!」
「そう? よかった」

二個目を口に入れて、やっぱりうまいって顔が緩む。

「優斗さんも食べていいよ? どれがいい?」
「捺くんに上げたのだから捺くんが全部食べていいんだよ」
「だって美味しいから優斗さんにも食べてほしいんだもん!」

買ってくれたのは優斗さんだけど。
どれがいい?ってチョコ見せると「じゃあこれ」とひとつつまんで、なぜか俺の口にいれてきた。
へ、と思ったら顔が近づいてくる。
あ、と気づいて顔を近づけた。
ちゅ、と唇が触れ合って俺の口の中のチョコを優斗さんの咥内に舌で渡す。
絡み合う舌の間でチョコが溶けていく。
甘いチョコがさらに甘く感じた。
優斗さんの首に手を回してチョコとキスを堪能していった。

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