ところてん、はじめました。C


そして―――俺はいま優斗さんのマンションにいる。
リビングには俺一人だ。
コンビニで買ってきたジュース飲みながら深夜番組見てる。
優斗さんは風呂。
この部屋にいるのも慣れてきたけど、やっぱちょっと緊張もする。
今日なんて無理言ってきちゃったしな。
よかったのかな、まじで?

『俺はいいけど、お家の方は大丈夫?』
『へーきへーき! 休みの日に俺が家にいるほうが珍しいし!』

深夜にいいのかと心配してくれる優斗さんに問題ない!って車に乗り込んだ。
実際平気だろ。
家にいるときの日曜なんて昼過ぎまで俺起きねーし、出かけてても気づかないだろうし。
朝メールでもしておけば全然オッケー。
それより、やっぱりよかったのかなぁ。
ムラムラしちゃってつい来たいなんて言ったけど―――俺からって今夜がはじめて、だよな。
いつもなんか会って、なんとなくそんなムードになってしちゃってるけど。
今日ってどうなんだろ?
優斗さん疲れてるよな。もう二時過ぎてるし。
俺は妙に目が冴えてるけど、スルのかな、シないのかな。
とりあえず今日寝て明日起きてから?って、俺もうバカじゃねーの。
ヤることしか考えてない自分にうんざりする。
こんながっついてんのって本当久しぶり……。
大きなため息をついてたらリビングのドアが開く音がした。
振りかえると少し乾かしてきたのか半乾きくらいの髪をかきあげながら部屋着きた優斗さんが俺に笑いかけてキッチンへと行く。
ビールを取りに行ったらしいその姿を眺めながらスーツのときもかっこいいけど、部屋着もかっこいいよなぁ、なんて。
俺もあと12年経ったらあんな大人になれんのかな?
―――無理だな。
ひとり自己完結しながらビール飲みたいなーって、リビングへ戻ってきた優斗さんが俺のとなりに座ってビールをあおるのを横目に見つめる。
でも優斗さんは結構厳しいから飲ませてはくれないだろうなー……つーか、湯上りって妙に色っぽく感じる。
やっぱあのゲイビのせいで変に欲求不満になってんのかな。
ビールが羨ましいなー、飲む仕草エロいなー……って、変態か俺は。

「……なんかついてる?」

ふっと吹きだして優斗さんが俺に視線を向けた。

「えっ」
「すごく見られてる気がしたから」

くすくす笑う優斗さんに、恥ずかしくて顔が引きつる。

「いや、あの」
「それともビール飲みたい?」
「飲みたい! っ……あ、いや、いい……です」
「いいの?」
「え……じゃあちょっとだけ」
「あ、でももうちょっとだけしかないな」

ビール缶を振って優斗さんが目を細める。
そして残り少しらしいビールを飲み干した。

「……」

え、くれないの。
呆然とする俺と優斗さんの視線が絡む。
あれ、って心臓がどくどく速くなった瞬間影が落ちて反射的に目を閉じた。
唇が塞がれて、開いたら苦みのあるビールが咥内に入ってくる。
口の中に溢れるビールをなんとか飲むけどどうしてもこぼれてしまう。
優斗さんの舌がそれを舐めとって離れていった。

「ごめんね」

なんのごめん?
首を傾げる俺はちょっとだけのビールよりもちょっとだけのキスが残念。
優斗さんの指が俺の口元に触れた。

「捺くんが可愛いから口移しで飲ませてみたくなったけど、こぼれちゃったね」
「……」

少し照れくさそうに笑う優斗さん。

「もう一本取ってこようか」

そして立ち上がりかけた優斗さんの腕を掴む。
あー、まじもう限界。

「優斗さん……。もう一回」
「……ビールは?」
「なしで……」

いつもなんとなくで始まる。
でも、今日初めて俺からそっとその手を引っ張ると、優斗さんは色気ありすぎな眼差しで俺を見つめて。

「……っ、んっ」

今度はビールの香りと一緒に舌を咥内に差し込んできた。

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