ところてん、はじめました。B


え、まじで優斗さん?
俺幻覚見てないよな、いや、うん。どう見ても優斗さん。

「ありがとう」

店員にも優しい声でそう言っておつりを受け取り店を出ていく優斗さんは俺に気づいてない。
自動ドアが閉じるのを見てハッと我に返って俺も店を飛び出た。

「ゆ、優斗さんっ」

焦って後ろ姿に声をかける。
優斗さんが向かっていたほうに車が停めてあるのが見えた。
足を止めた優斗さんがワンテンポ遅れてゆっくりと振り返る。

「……捺くん」

驚いたように俺を見る優斗さんに駆け寄った。

「どうしたの、こんなところで」
「こんなところって、だって俺んちの近所だもん! 眠れなくってちょっと散歩がてらコンビニまで来たんだ。優斗さんこそ、こんなところでどうしたの?」

優斗さんはスーツ姿。今日は仕事って言ってたし、仕事帰りなのかな。
でももう深夜1時過ぎてるけど。

「……え、あ……そうかそうだよな……」

途中ぼそぼそと呟きながら、優斗さんはなんでかちょっと気まずそうに目を細める。

「仕事帰りだよ」
「そうなんだ。こんな遅くまでお疲れ様です」

でも―――なんでこんなところにいるんだろう。
優斗さんの職場は近所なんかじゃないし。
住んでるところも近くはない。

「……0時ごろ仕事が終わってね、疲れてるんだけどなんとなくまっすぐ帰る気分でもなくって……車だったから適当にドライブしていたような……感じかな」

俺の疑問を感じ取ったのか、やっぱり気まずそうに優斗さんは小さく笑った。

「あーなんとなーくわかる! 俺もテスト前とかで徹夜勉強してテスト終わったあと眠いけどカラオケ行くぞー!みたいな……」

言いながら俺と一緒にすんなよ、って自分でつっこむ。

「ごめん、違うよね」
「いや、そんな感じだよ」

俺ってバカ、って脱力してれば優斗さんが優しく微笑んで首を傾ける。

「送っていこうか? まだコンビニいる?」
「ううん。―――……でもいいよ! 家近いし。優斗さん明日も仕事? 疲れてるだろうし」
「明日は休み。気にしなくていいよ」

休み、なんだ。
その一言に、むくむくと衝動が湧き上がってくる。
でも、でもなぁ。
仕事で疲れてんのに、わがまま言うのも……な。

「さっき捺くんも言ったみたいに、俺も疲れてはいるけど、全然眠くないし。捺くんの家すぐだから大丈夫だよ」
「……うん」

ほんっと車であっという間に着いて、じゃーねーってお別れだよなぁ。
俺的にはもうちょっと―――……なんだけど。
よくよく考えればいままで毎週優斗さんから誘われるばっかりで俺から誘ったことなんてない。
だから、いいのかなぁ迷惑じゃないかなぁって考えてしまうんだよなー……。

「捺くん?」

どうしたの、と優斗さんが心配そうに俺を見つめる。
あー……昔は気軽に女の子にメールでえっちしよーよー♪なんて送ってたのに。
何も言えずにぐだぐだ悩んでる今の俺……ヘタレか!!
あー……もー。
内心ふかーくため息ついて、半袖で出てきた俺には冷たい夜風に身体を竦めた。

「車、乗ろう? 寒いだろ?」

手が伸びてきて俺の腕に触れる。
その体温に―――あああああああ、無理!
やっぱムラムラする!!!

「優斗さん」
「ん? なに?」
「……優斗さんの部屋行きたい。ダメ?」

必殺上目遣いで優斗さんをじっと見つめてしまう、欲望に負けるダメな俺だった。

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