05


「うん、美味しい」

智紀さんがワインをあおり、満足げに頷く。
俺はテーブルに置かれたワイングラスを手に取り眺める。
智紀さんの会社で取り扱っているワインで、美味しいチーズとか買ってきたからたまにはゆっくり飲まないかと誘われた。
正直俺にはあんまりワインの味はわからない。
美味しいと言われれば確かに、という程度だ。
わりと飲みやすいワインを飲みながらチーズを食べて……なんて智紀さんと一緒じゃなきゃしないだろうな。
まるでバーでもきたかのように皿に綺麗に盛りつけられたおつまみに手を伸ばしチーズを取ろうとしたらそれを横から伸びた手に取られてしまった。

「はい、あーん」

にこにこ笑った智紀さんが俺の口元にチーズを持ってくる。

「……ひとりで食べれます」

もうだいぶ慣れはしたけど男同士で食べさせあうのってどうなんだよ、と俺は智紀さんの手からチーズを奪って食べた。

「ちーくん、けちだなー」
「……ケチとかいう問題じゃないと思いますけど」
「あーんしたいなー」
「俺はしたくないです」

だいたい食べさせあうとかどこのカップルだよ―――。
過った思いに、ふっと告白のこともよみがえって気まずさを感じて視線を逸らした。

「ちーくん」
「……なんですか」

テレビを眺めながら返事だけをした。
その直後、腕を勢いよく引っ張られて顔を向ければ、目を細めた智紀さんがドアップで。
え、と思った瞬間、唇を塞がれ割りこんでくる舌とともにワインがはいってくる。

「っ、ん」

とてもじゃないけどいきなりで飲み込めるはずもなく、ワインが口端からこぼれていくのがわかる。
否応なしにワインを飲みこんでようやく智紀さんは離れた。
口を手の甲で拭いながら、

「なにするんですか……」

本当にこの人は……って呆れたため息が出た。

「あーんしてくれないから強行突破?」
「強行って……」
「こっちのほうが手っ取り早いし、キスもできて一石二鳥だったね」

にこにこと爽やかな満足気な笑顔を浮かべている智紀さんに脱力感。
二度目のため息をつきながら口直しとばかりにチーズを食べる。
そんな俺に笑いながら智紀さんは腰を抱いてきた。
もしかして、このままソファで襲われるのか?

「俺まだ飲みたいんですけど」
「俺も飲むよ。はい、カンパーイ」
「……」

思い違いか?
だけどまだ智紀さんの手は腰にあって、動いてはないけど気になる。

「ちーくん」
「はい?」

あんまりいまそう言う気分じゃないんだよな。
智紀さんがチーズを取ってるのを見ながら相槌を打てば、そのチーズがまた俺の口元に。
また?

「仕事どう? 頑張れそう?」

不意に聞かれ、心臓が跳ねる。

「……ええ。頑張りま……っ」

平静を装い口を開いた俺に、言葉途中でチーズが放り込まれる。
反射的にチーズを食べれば、

「希望の部署だった?」

と続けて聞かれた。
希望の、という言葉にどうしても気分が沈むのを感じて、きっと少しだけど顔に出たかもしれない。
敏い智紀さんが気づかないわけ……ないだろうな。
ため息をつきながら、

「希望の部署ではありませんでした」

と、入社して一週間の日々を思い出した。

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