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驚きすぎて喉が鳴りそうになった。
唾を静かに飲みこんで一歩後ずさって半笑いする。


「傷って……なんか智紀さんがいうとエロいですね」

わざと言ってみた。
冗談めかして笑う。
そうして流さないと飲みこまれそうな気がする。
って、何にだよ。


「エロい? そ? その気になった?」

誰かトイレに入ってくればいいのに。
二人きりの空間が変に息苦しい。


「……何言ってるんですか、智紀さん」

バカみたいにデカイ声で笑う。
その気ってなんなんだ。
違う、違うよな。


「んー、どうやったら千裕くんはその気になる?」

洗面台に寄りかかった智紀さんが意味深な眼差しを向けてくる。
なんでこんなに動悸が激しいのか。


「その気って」

笑おうとしたけど顔が引きつった。
智紀さんはそんな俺を楽しそうに見てる。
いったい俺はどういう反応を返せばいいんだろう。
からかわれてるのか?
それとも、本当に―――。

智紀さんが一歩近づいてきて俺の手を取る。
強い力じゃないけどしっかりと手首をつかまれて自分でもよくわからないくらい緊張した。


「あ、あの」
「俺、いま千裕くんをナンパしてるんだけど。どう?」

どこをどうみても変なひとじゃなさそうな、明るい笑顔をしているのに。
まるで俺をからかうような言葉を言う。
でもからかいじゃなさそうだって思うのは、単に俺が煽られてるから?


「どうって……。俺、男ですよ」
「ああ、俺バイだから大丈夫」
「……は?」

あっさりとカミングアウトした内容は問題発言じゃないのか?
バイって、バイセクシャルだよな。
女も―――男も……。


「千裕くん、たまにはハメはずすのもいーんじゃない? 俺が」

一歩近づいてきて顔をのぞきこまれた。
吐息がかかるくらいの至近距離。
智紀さんの人差し指がトンと俺の胸をつく。


「忘れさせてあげよっか?」



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