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身体中の血がざわざわして巡っているような感覚。
相手は男で、予想もしていなかった展開。


「で……も…」

なのにどこかで揺れる自分が意識の端っこにいる。
すぐに拒否できないのはなんでだよ。
甘い笑顔をした智紀さんは顔を動かした。
俺の耳元でゆっくりと唇が動く気配がわかった。


「俺の手を取りなよ。―――ちーくん」

耳元で甘く囁いてきたのは俺が好きな鈴の声じゃない。
ましてや他の女の声でもない。
低く、からかうような響きをした男の、智紀さんの声だ。
ついさっきまでは“千裕くん”と呼んでいたはずだ。
不意のことに驚きをそのまま顔に出すと、男は屈託のない笑顔を妖艶に歪める。


「アタリ? ちーくん。って、カノジョのかわりに呼んであげるよ」

鈴が屈託なく呼ぶ声とは当たり前だけどまったく違う。
なのに呼ばれるたびに戸惑う。
俺の動揺を見透かすように智紀さんは首を傾げ俺に顔を近づけてきた。


「ちーくん、ほら。口、開けて」

伸びてきた親指が俺の唇を滑り、ほんの少し開かせる。
頭の中で警報が鳴り響く。
どうしよう、まずい。
そんな言葉で埋め尽くされてるのに身体が動かなかった。


「―――智紀さ…」

我に返ったときには遅く、重なった唇から舌が入り込んできていた。


「……っ」

強張る身体と舌。
咥内をゆっくりと舐めて動く智紀さんの舌は熱く、縮こまった俺の舌を絡め取る。
ざらつく舌が舌の表面や裏筋をなぞって戯れるように動いていく。

―――経験がないわけじゃない。

俺は鈴しか見てなかったけど、彼女は何人かいたし経験はある。
でも……。
そんな経験なんてこの人を前にしたらゼロなんだって思い知らされる。
頭の中が熱で蔓延するような思考力を根こそぎ奪われるようなこんな感覚、知らなかった。



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