13


「ちーくん、さすがの俺もちょっと休憩したいんだけどいい?」
「はい、もちろんですよ。運転かわりましょうか?」
「それは大丈夫だよ。宿を京都に取ってるんだ。いい?」
「え?」
「知り合いの旅館で融通効くんだ、いろいろ。朝だけどチェックインさせてもらって、ひと眠りしてから初詣と京都観光しようか?」
「……」
「そうだ、家に連絡入れておく?」
「あ……メールしておきます」

初日の出を見終わって、車の中での会話。
宿、という単語に一瞬固まった。
だけどここまで来てUターンなんてあるはずもないだろうし、せっかくだから観光だって俺もしたいし。
智紀さんは徹夜で運転し続けで疲れてる。
宿だって寝るためなんだから当然で、別に、なにもない。
そうだよ、智紀さんはずっと運転して疲れてるんだから。
同じことばかり何回も考えて、否定してって―――俺、自意識過剰なのか?
ずっと乗っていた高速道路を降りればそこは目的地の京都で、智紀さんはカーナビを見ることもなく住み慣れた街のように運転していた。

「はい、とうちゃーく」

着いたのは俺なんか泊ったことない老舗っぽい旅館。
車を停め俺を案内してくれる智紀さんは、挙動不審にきょろきょろしてる俺と違って落ち付いてる。
全然場所に浮いてないし……。

「ちーくん。おいで」

逆に場違いな気がしてのろのろと歩いていた俺の手が躊躇いなく引っ張られた。
そして旅館に入ると本当に智紀さんの知り合いらしく女将さん自らが部屋に案内してくれて―――。

「……広」

予想以上に広かった。
趣を感じさせる二間続きの部屋。奥は庭に面していてる。
片方の間にはすでに布団が敷かれていてバカみたいにドキリとしてしまう。
でも、当然ちゃんと布団の間は離されてるし。
もう一体何回思ったかわかんないけど、徹夜明けで疲れてるんだから、だから。

「檜風呂もあるんだよ」

ほら、と性懲りもなくモヤモヤ考えていたら智紀さんに奥へと連れていかれる。
庭を見れるように作られた檜造りの展望風呂があって、俺はポカンとしてしまっていた。

「一緒に入る?」

俺の顔を覗き込んで智紀さんが笑う。
即座に俺は首を振って、また一層笑われた。
そのあと少しして朝食が運ばれてきた。
徹夜明けだからとシンプルな料理をお願いしていたらしくて、確かに俺もがっつり食べる気分ではなかったからちょうどいい量の上品な朝食を味わった。
食べ終わった頃にはもう10時に手のかかりそうな時間。

「俺、風呂入ってくるから。ちーくん、どうする?」
「……俺はいいです」

昨日入ったし、っていい訳のように言い添える。
特に智紀さんはそれ以上誘ってくることはせずに俺の頭を軽く撫でるように叩くと、

「先に布団入ってていいよ」

とだけ言って風呂に入りに行ってしまった。
シンとした部屋にひとりになって、落ち付かずにテレビをつけてみた。
新春特番があっててそれを見るともなしに眺める。
新春初笑って漫才がずっとあってたけど、全然頭に入ってこなかった。
先に寝てればいいのに、妙に頭が冴えてて寝れそうにない。
その場から動くこともできなくてどうしようかと思っている間に時間はたっていたらしく、風呂に続くドアが開いた。

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