05


「……あの。神社の場所、わかりますか」

とっとと初詣を終わらせたくて自分から切り出す。
わざわざ迎えにきてもらって近所の小さい神社でいいんだろうかと申し訳なくも思うが、誘ってきたのは智紀さんだし……いいよな?

「んー? わかるよー。候補はふたつかなー」
「……候補?」

車の中には小さめで洋楽がかかっていた。
それに耳を傾けたいが、智紀さんの言葉にひっかかる。

「候補って……どこに行くんですか?」

新年になってすぐの初詣は大晦日からしか行ったことがない。
神社に着くのが2時を過ぎてもいいんだろうか。
まぁ別にお参りだけはできるんだろうけど……。

「ちーくん、正月暇なんだよね」
「……はい……?」

俺が先に質問したけど質問で返され、少し不安に思いながらも嘘はつけないから頷く。
なんとなく正月は予定を入れる気になれず大学が休みの4日まではのんびり過ごすつもりだった。

「俺さ、1月3日が誕生日なんだよね」
「……おめでとうございます」

明後日なんだ。
新年三日が誕生日ってめでたいけど正月とごっちゃにされそうだな。

「まだ今日誕生日じゃないから、当日言ってほしいな、おめでとうは」
「……」

それは俺に電話でもしてこいってことなのか?
戸惑って返事を返せないでいると前を向いたままの智紀さんが小さく笑う。

「ね、誕生日プレゼントくれる?」
「……高いものでなければ」

素直にあげますよ、と言えないのは、大学生の俺が智紀さんに喜んでもらえるようなプレゼントを用意できそうもない。
というのと―――あげてもいいけど、言われるままに流されていたらこの人との縁が切れそうになくて少し不安だっていうのがある。
……別に智紀さんのことが嫌いなわけじゃない。
でも傍にいると、落ちつかない。

「高くないよ。くれる?」
「……なんですか?」
「用心深いなー」
「……」
「初詣にちょっと遠出したいんだけどそれに付き合って欲しいなーっていうだけだよ」
「遠出?」
「そう」
「どこへ行くんですか?」
「京都」
「……は!?」

あっさり告げられて呆気にとられた。
京都って……。

「車で、ですか?」
「そうだよー、高速で6時間もかからないよ」
「……いや、ちょっと遠出どころじゃないと思うんですけど」
「初詣と、あとたぶんちょうどよく初日の出セット、みたいな? あー初日の出見てから初詣でいいか」
「……あの、俺行くとは言ってないですけど」
「高いものでなければくれる、って言わなかったっけ?」
「……タダより高いものはないっていいますけど」

とっさにそう返したら智紀さんは吹き出して、しばらくの間笑っていた。

prev next
36/105

TOP][しおりを挟む]