04


「あれ? 終わり?」

からかう声にムッとしかけて、

「はい」

とだけ返した。
この人と話しているとペースを崩される。
子供のように拗ねてしまいそうになった自分に内心呆れた。
そうしてそんなところを見せたくないと思ってしまう自分にも呆れるし、戸惑う。
別に普通にしてればいいはずなのに、なにを俺は取り繕おうとしてるんだろう。

「そうなんだ。残念。もっとフォローしてほしかったな」
「……」
「―――ちーくん」

背けていた視線を、ちらり戻せば智紀さんが俺の方へと身を乗り出してくるところだった。
距離が狭まってほのかに甘い香水の香りが鼻孔をくすぐる。
手が俺のほうへと伸びてきて心臓が急激に速く動き出す。
身動ぎすることもできない。
視線をあわせたまま、智紀さんは俺を見つめたまま―――

「とりあえず出発しようか」

と、シートベルトを締めてくれた。

「……」

伸ばされた手は俺を素通りしてシートベルトを掴んで、そしてセットして、それだけ。
触れられるんじゃないか、なんて自意識過剰にもほどがある。
いや、でも絶対さっき触ろうと―――……、と智紀さんを伺うように見ればばっちりと目が合った。

「なに?」
「……いえ、なんでも」
「そう?」

笑いながら智紀さんは車を発進させた。
俺は自然に前を向いて、それから視線を横のウィンドウへと向けた。
外は暗い。
だからこそカーオーディオのライトで少しの明るさがある車内がウィンドウに映っている。
俺も、その隣にいる智紀さんも。
楽しそうな横顔を窓越しに眺めながら、俺はやっぱり来なければよかったかもしれない、と早々に思いはじめていた。
だけどもう車は走り出している。
早く初詣を終えて帰ろう、とそっと胸の内でため息をついた。

prev next
35/105

TOP][しおりを挟む]