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俺に鈴のことをチラつかせながら、智紀さんが俺にしている行為は誰に本当はシたいと思ってるんだろう。
傷の舐めあいが、お互いの心の隙間を埋めるものだとして。
もしかすればそのうえでのセックスはお互い違う相手のことを―――本当に好きな人のことを重ねてしたりするのかもしれない。
だけど、俺には無理だ。
何故なら俺の想い人は女である鈴で、いまこうして俺を快感に導いているのは男である智紀さん。
そこで根本的な齟齬が出る。
どういう行為をしようが俺が智紀さんに鈴を重ねることなんてできやしない。
だけど―――智紀さんは―――……。
「や、いやだっ」
気づけばそう叫んでいて、拒絶が色濃く滲んでいたせいかぴたりと俺を翻弄していた智紀さんの動きが止まった。
「どうしたの、ちーくん」
怪訝に問いかけられて、とっさに叫んでいた自分に恥ずかしさがわいた。
だけど胸のあたりがもやもやとしてこれ以上こんなことしたくなかった。
「……もう、やめましょう。こんなこと」
声を絞り出して顔を背ける。
俺からは智紀さんが見えないけれど、智紀さんは俺を見ることができる。
俺はいったいいまどんな顔をしているのかと少し気になったが、そのまま言葉を続けた。
「俺たちがセックスしたって……無意味です」
「―――なんで?」
少し間を開けて問い返される。
智紀さんの動きは止まったままだったから晒された身体を隠すように横向きになった。
「……傷の舐めあいなんて意味ない……です。相手のことを重ねて抱いたって……その場はいいかもしれないけど、あとできっと後悔するし虚しくなる」
一夜限り、なんてよくある話なのかもしれない。
失恋してお互いの傷をっていうのも別に特異なことではないかもしれない。
けど、いまさらかもしれないけどシたくないと思ってしまった。
智紀さんの反応がなく、もしかして怒ったのだろうかと気配をさぐってもシンとしていて何もわからない。
「……それはちーくんが後悔するってこと?」
「……お……れもそうだし、智紀さんだって……」
「じゃあ例えば相手が俺じゃなくって可愛い女の子だったらここで迷わなかった?」
「そんなんじゃないです。別に俺は……最初は躊躇ったけど……でも。ただ智紀さんの好きな相手は……その俺と同じように年下だし、俺にその子を重ねて抱いたって……途中で虚しくなるんじゃないかって……」
言いたいことがなかなかまとまらずに結局途切れて口をつぐんだ。
智紀さんはどういう表情をしてるんだろう。
しばらくまた沈黙が落ち、微かにベッドが軋んだと思ったら手の拘束が解かれた。
「なんか、ちーくんって……」
少し笑いを含んだような声がしながら、今度は目隠しが外された。
暗闇から薄闇へと変わる。
智紀さんはすぐそばで俺を見下ろしていて、解放されたとたんに目があった。
かわらず笑っていた。
目隠しされたときよりも色気をまとった目が、俺を見ている。
そこには俺が言ったことに対する戸惑いや怒りなんかはまったく見受けられなくて、逆に楽しそうに光った。
「ちーくん、自分がどんな顔して、いま喋っていたか知ってる?」
「―――え」
解放されたかと思ったのに、智紀さんは俺を囲うように手をつき、顔を覗き込む。
「拗ねた顔してる」
「……は?」
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