6 キミがいやがることはしたくないんだ。


「え、いいの? 本当に」

智紀さんは驚いたように目を見開く。
そりゃそうだろう。俺だってなんでほだされちゃったんだろうと言った傍から思ってるし。
でも一度言った以上いまさらイヤだなんてことは言いたくない。

「いいですよ。……昔はみんなふんどしだったわけだし」

日本の伝統だ、となんとか自分に言い聞かせる。

「まぁそうだけど。でもやっぱり慣れないと恥ずかしいだろ? ちーくん照れ屋さんだし、無理しなくても」
「大丈夫ですって!」

誰が照れ屋さんだ、誰が。
思わず平気だと大声を出してしまった。

「……いいから早くしましょう。的外れだけど……智紀さんからのプレゼントなんだし」

果てしない勘違いからのプレゼントにしても、選んでくれたことは嬉しい。

「ありがとう。千裕」

智紀さんは俺の頬にそっとキスすると嬉しそうに褌を手にした。

「それじゃあちーくん脱いでくれる?」
「……は、はい」

一瞬呆けて、ふんどしなんだからそうだよな……って、全部脱ぐのかな。いや、そりゃそうだよな。
大丈夫だと言った以上照れたりもじもじしてるのも男らしくない。
静かに深呼吸一つして俺は一気に下を脱いだ。パンツもろとも、全部。

「ちーくん、上もね」
「え、でも」
「上着たまま褌って間抜けじゃない?」

平然と、特に他意なさそうに苦笑する智紀さんに黙って頷いて全裸に。
部屋はもちろん明るくてなんで俺全裸に、と羞恥が襲ってくるが我慢だ。

「それじゃあ少しだけ脚広げて立って。肩幅くらいね」
「……はい」

智紀さんは手順を思い出すようにふんどしを広げ眺め、そしてふんどしの真ん中あたりを俺の股間に通すと片側を左肩へとかけ、後に渡した方を捩じって腰に回す。
そういや練習したって―――こんなことをあの男らしい鬼原さんとしたのか?
ちょっとだけ、本当にちょっとだけもやっとしたものを感じて智紀さんを見る。
智紀さんの眼差しはすごく真剣で、一連の動きに無駄なものはなく本当にちゃんと教わってきたんだって気がした。
もやっとしたものは霧散して、かわりに捩じられたふんどしが尻の割れ目にグッとハマっていく感覚に変に緊張しだした。
一瞬Tバックもこんな感じなのかって思ったけど……日本の文化とTバックを一緒にしちゃダメだよなと内心首を振る。
グ、グッと縛られているような腰回りにそわそわしそうになるのを抑えていたら、

「できたよ」

と智紀さんが晴れやかな顔で腰を叩いてきた。

「ありがとうございます」

自分を見下ろして股間を包む褌を眺める。
実際どうなんだろう。ふんどし締めた感想はやっぱりケツが寒い……んだけど。

「ね、ちーくん。鏡見てみてよ。すっごく似合ってるよ」

そう言って智紀さんが俺の腕を引いてスタンドミラーの前まで連れて行った。
そして俺は自分の姿を見た。

「……変じゃないですか」

鬼原さんの凛々しいふんどし写メと比べるとどうしても微妙な気分だ。
比べるのもおこがましい肉体美だった鬼原さんと俺の貧弱な身体じゃどうしようもないんだけど。

「すごく似合ってるよ!」

白いふんどし。
着なれないから顔が緊張してて自分ではやっぱり似合ってないと思うんだけど。

「……それならよかったです」

智紀さんがすごく嬉しそうだからつられて俺も口元が緩んでしまった。

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