5 ……ごめんね?
ちら、と見れば智紀さんは呆けたような表情をしてる。
めったに見れないその表情に申し訳なく思うのと同時におかしくてつい吹きだしてしまった。
瞬間我に返ったように智紀さんが脱力してテーブルにふさぎこむように突っ伏して、ため息混じりに顔だけを俺へと向ける。
「えー……俺てっきりちーくんがふんどしにハマってるんだって思って」
「ハマってるってなんですか」
「ふんどしって結構流行ってるだろ?」
「そうなんですか?」
ああそういや確か女性向けのふんどしもあるって以前ニュースで見たことあるな。
まぁ俺は履いたこともないけど。
「うん。だから俺ふんどしのこといろいろ調べて選んだんだよー。鬼原さんにも相談にのってもらってさ」
「鬼原さん……ってさっきの?」
男前なあのひとにふんどしの相談?
「そうそう。鬼原さんってふんどし兄貴なんだよ」
「……えー!?」
「見る? 鬼原さんからはちゃんと許可もらってるから大丈夫だよ。ちーくんとも今度ふんどしの話ができたらって言ってたし」
言いながら智紀さんはスマホを操作し俺に見れる。
映し出されている写メ。
そこには髪をオールバックにしてきりっとした表情でバーらしきカウンターでビールを飲んでいる鬼原さんの姿。
かっこいいんだけど―――ふんどし一丁だ。
「……」
「かっこいーよね」
「……そうですね」
確かにかっこいい。日本男児って感じで、男前で体つきもしっかりしてるとサマになるというか。
「せーっかく鬼原さんにふんどしの締め方も教わったのに」
あーあ、とぼやく智紀さんに俺は苦笑しかけて止まった。
「……もしかして、智紀さんもふんどし締めたんですか?」
「ううん」
そうだよな、とホッとしたようなちょっと見てみたかったような複雑な心境でいると、じーっと智紀さんが俺を見つめてきた。
「仕事絡みだったんなら、これ……いらないよね?」
俺の手にあるふんどしに智紀さんが手を伸ばしてくる。
確かにいらないといえばいらない。
だけど智紀さんが触れる前にそれを守るようにしてしまう。
「……いるの?」
俺の行動にきょとんと訊いてくるから、小さく頷く。
「正直使わないと思いますけど……せっかく智紀さんが選んでくれたんだし俺の誕生日プレゼントだし……いります」
そう言えばパッと智紀さんは顔を輝かせ嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、ちーくん」
「いえ、俺こそ……ありがとうございます」
俺のことを考えて選んでくれたっていうのが一番のプレゼントだと思うから俺も笑顔を返した。
智紀さんはそんな俺を目を細めて見つめ、手招きした。
「ここ、来て」
ぽん、と膝の上を叩いて促される。
「……」
「ちーひーろー」
「……」
仕方なくふんどしを持ったまま智紀さんのところへ行って、躊躇ったまま立ちつくしてしまうと腕をひかれ座らせられた。
「サプライズ不発でごめんね?」
「……別にいいですって」
「うん。でもさー……残念」
ぎゅっと俺の腰を抱き肩へと額を押し付けながら智紀さんがため息をつく。
「なにがですか?」
「んー……俺の勘違いでふんどし選んだんだけどさ。ちーくんがふんどし締めた姿見れるって楽しみにしてたから」
ふう、っと吐息を俺の首に吹きかけながら智紀さんが俺を見上げる。
「……」
「……ちーくん」
「……」
イヤな予感がひしひししてくる。
「俺、千裕にふんどし締めてあげたいな」
「……」
「でも、興味ないし、ヤだよね?」
「……」
返事することができない俺に智紀さんは苦笑して。
「鬼原さんにせっかく教わったんだけど、ダメ、だよね?」
鬼原さんもがんばってくれって言ってくれたから、いい報告したいけど―――と訊いてくる。
……卑怯だろ。
第三者を出されたら拒否しづらい。
「それに単純に……一回でいいから俺が選んだこのふんどしを千裕に身につけてほしいなって……」
「……」
ぐ、とやっぱり返事につまる。
でも―――確かに一度くらい使わないと申し訳ないって気持ちもある。
でも、でもだ。
ふんどしって……ちょっと恥ずかしくないか、って迷ってしまう。
「……ごめんね、やっぱりいい……」
「いいですよ……」
いつもと違って自信なくうなだれる智紀さんに俺はついそう言ってしまってた。
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