3 お祝いは美味しい料理とケーキ、そしてやっぱりね?


「……うまい」

全部、うまかった。
トイレからしばらくして出れば、ホテルマンはもう退室していた。
窓際のテーブルにセッティングされた料理。オードブルにメインの肉料理に、スープにといい匂いが漂う料理の数々。
それにワイン、そして小さいホールケーキにはハッピーバースデーと俺の名前入りだ。
食べよう、と促されすっかり熱も落ち着いた俺は素直に頷いてワインで乾杯して、美味しい料理に舌鼓を打った。
レストランの個室でもよかったんじゃないのかって最初は思ったけど、確かに部屋のほうがさらに落ちつけるのは確かだ。
しきりに食べさせようとしてくる智紀さんを何回か拒否しつつ、最終的にはほんの数回食べてあげながら料理はすぐになくなっていった。
この人と付き合いだしてワインの味もだいぶ分かるようになった気がする。
奮発したんだろーなーって、美味しいワインを飲みながらちらり視線を向ければ智紀さんはホールケーキにささったロウソクへと火をつけているところだ。
ハッピバースデーを臆面もなく歌いながら。
部屋はメインの照明を消していて、ロウソクの灯りが薄暗いなかでゆらゆら揺れている。
なんか智紀さんってホント、マメなのか、気障なのかって絶対気障だよな。
―――まぁでもこうして楽しそうに祝ってもらえて……嬉しくないわけはないんだけど。

「お誕生日おめでとう。千裕」

もう何度か言われた言葉を贈られ、ロウソクの火を吹き消した。
ありがとうございます、と少し頬が緩んでしまった。
いいえ、と笑いながら智紀さんはケーキは切り分けるでもなく、そのままフォークを突き刺して一口分を俺の口元へ持ってきた。

「はい、あーん」
「……」

またかよ。
と思わないでもないけど、黙って口を開ける。
運ばれてきたケーキは甘すぎず美味しかった。

「俺も食べたい」
「……」

はい、とフォークを渡されれば食べさせろってことはわかる。
ため息をつきながらも仕方なく食べさせてあげて。
さらには「ここ食べたい」と智紀さんが指さしたのはチョコレートプレートのfor千裕の部分で。
そこは無言でチョコを割って俺が食べておいた。
ケチだなーって笑う智紀さんはテーブル下に準備していたらしいラッピングされた箱を俺へと差し出した。

「千裕にプレゼント」
「……ありがとうございます」

A4サイズくらいの幅はそこまでない箱。
にこにことしてる智紀さんに開けていいですかって訊くともちろんと頷かれて、丁寧にラッピングをといていく。

「……」

なんだろう。
紺色の包装紙の下には桐箱。
桐箱?
不思議に思いながら箱を開ければ、白い包み紙がしてあって、それを開くと真っ白な、真っ白な。
真っ白な。
え、っと、えーっと。

「―――……手ぬぐい?」

触ってみるとシルクってことはわかったけど、うん、なにかわからず呟くと。

「あはははー。千裕ったら、ふんどしに決まってるだろ」

って、笑われた。

「……ふんどし?」
「そう!」
「……」

にこにこ、にこにこと満面の笑みの智紀さん。
は?
え?
なんで―――ふんどし?

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