2 気合入れますよね。
エレベーターが目的の階へと着いて降りて―――まず戸惑った。
レストランだろうと思っていたのにそこは客室フロア。
えっと困惑してる俺の手を引いて智紀さんが四桁の部屋番号が記された部屋のドアをカードキーで開ける。
そのまま中へと足を踏み入れて、
「広っ」
思わず口をついて出た。
セパレートタイプの部屋は大きなテレビとコーナーソファが置かれていて、正面は一面のガラス窓で夜景が広がっている。
「え、なんですかここ」
まさかスイート!?
ぽかんとする俺の心を読んだように「スイートじゃないよ」と笑いながら智紀さんが俺の腰を引き寄せてソファに座った。
智紀さんの膝の上に乗せられた状態だ。
「そうなんですか? でも広い……」
本当にスイートじゃないのか?
それに準ずるくらいには広い気がする。
高級ホテルなんか泊まったことないし、わからないまま呟きながらぐいぐい智紀さんの肩を押して隣に移動しようとするけど力を緩めてくれない。
「それにてっきりディナーかと」
「うん。ちーくんの誕生日だから美味しいものも食べたいし、綺麗な夜景見たいし、素敵な部屋で過ごしたいしー特別感だしたいしーふたりっきりで過ごしたいしー今日ボーナス出たしーでココ」
にこり、と爽やか過ぎる笑みを浮かべ淀みなく言いきった智紀さんに……眉が寄ってしまう。
この人、俺に甘すぎじゃないか?
「俺は別に智紀さんの部屋でも……」
「付き合いだしてはじめの千裕の誕生日なんだから気合入れたいだろ?」
そう俺の口元にキスしてくる、から、また眉が寄った。
そんな俺に吹きだしながら智紀さんが俺の頬に手を滑らせる。
「ちーくん。照れるの我慢してる顔なんて俺を誘うだけだってわかんないの」
「……は? 誰が照れっ、んっ」
言葉は最後まで言うことができずに智紀さんの口の中へと飲み込まれる。
するりと舌が入ってきてからかうように俺の舌に触れてくる。
絡みそうで絡まない舌同士。
抵抗したい。けど背筋をなぞりあげてくる掌に微かに熱が灯って耐え切れず俺から舌を絡めた。
途端に激しさを増し、吸い上げられ、音を立てて舌と唾液と交りあう。
きつく抱き寄せられて角度を変えるたびに深くなっていくキスに腰が重くなっていくのを感じた。
舌が甘噛みされ、唇が少し離れると、
「お誕生日おめでとう。千裕」
囁かれてまた触れ合う。
夕食は、って少し思ったけど、身体の中で燻る熱にそんなことよりもいまはってなってしまう自分はどれだけこのひとに毒されてるんだ。
すがりつくように智紀さんの首に手をまわし、智紀さんの手がケツに触れてきて、ずくずくと湧き上がってくるものに吐息をこぼしてしまったら―――。
ドアチャイムが鳴った。
「ルームサービス来たみたいだね」
赤くなってるだろう俺と違って平然とした様子の智紀さんは俺をよいしょっと膝からソファへと下す。
え、っとなってる間に智紀さんは部屋のドアを開ける。
ホテルマンが挨拶とともにワゴンを押し入ってきて、ソファに座りこんでいた俺はハッと我にかえると立ちあがった。
「千裕、トイレならここだよ」
智紀さんがそう廊下に面したドアをノックしてみせる。
俺はそそくさとそちらへ向かうと、「違いますから、勘違いしないでくださいよ」と言ってトイレに入った。
無駄に広い綺麗なトイレ。
本当に―――勘違いすんなよ。
別にトイレに来たのはちょっと反応したのを慰めるためなんかじゃねーんだからな!
ただ本当に、落ちつくためだ。
部屋でニヤニヤしてるだろう智紀さんのことを考え、深いため息をついた。
***
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