12月3日


"百年位前から気になってたんですがw、優斗さんの男性初体験の話が読みたいです☆
優斗さんノンケなのに、捺くんと付き合う前に経験あったことにめちゃ滾りましたw"

注意☆
視点が受けキャラ(本サイト未登場)となります。


***


もうやめよう。
その言葉をいつ言われるか、いつだって気にしてた。
酒の勢いで俺が唆すようにしてはじめた関係。
『男同士だし、扱きあいするくらいなんてことないよ』
そう嘯いた。
でも―――わかっていた。
流されているようで、佐枝が流されきれてないことなんて。
それでも、だけど、俺はどうしてもようやく手にした佐枝との距離をなくすことが、できるわけなんてなかった。


「……っ、は……ぁ」
互いの荒い息が混ざりあう。狭いワンルームのアパート、安いシングルのベッド。
俺と佐枝は前だけをくつろがせて性器をとりだして擦り合せて欲を吐き出してまどろむ。
これで、こうして佐枝とするのは6回目。
触れることなんて一生ないだろうと思っていた相手と性器を触れ合わせる。それはそれだけで何もかも忘れてしまうくらいの興奮と快楽に包まれてる。
―――その前後は、いつ終わってしまうんだろうという不安に支配されてしまうけど。
「……杉」
佐枝が俺の名を呼んでティッシュを渡してくる。夢から現実に戻る瞬間。
「……ごめん」
ありがとう、ではなく、ごめんと謝ってしまいながらティッシュで濡れた手を拭く。
佐枝と目を合わせることはできなくて、今日もまたこうして付き合わせてしまったことへの罪悪感と、今日はまだ大丈夫だったっていうことに安堵する。
「……コーヒー淹れるな」
「杉」
コーヒーを一杯飲んで、そして佐枝がこの部屋を出ていく。それがパターンとなりつつあった。
だけど、
「……なに」
「ちょっと、いいか」
静かな佐枝の声が、いつものパターンを崩そうとしていた。
ベッドから降りようとしていた俺はまた腰をおろして佐枝を見る。
なにかを考えているような、決めているような表情。
さっきまであった微かな欲の熱なんてのはあっさりと消えうせる。
そっと拳を握りしめて佐枝の言葉を待つ。本当は待ちたくなんてない。
だって、なにを言うつもりかなんてわかっている。
本当は今日―――声をかけたときから、もう駄目かもしれないと気づいていた。
そして、俺の予測が正しいことを証明する言葉が告げられた。
「もう……やめないか」
俺は、笑って、軽く返事しなきゃいけない。
佐枝がそう言うならもうやめよう。と、ただの戯れなんだから、あっさりと同意しなきゃならない。
なのに声が張り付いてでない。笑おうとしたけどきっと引き攣ってる。
「……そ、だな」
情けなく震えてしまった声はバカみたいにか細いものだった。
「ごめん」
佐枝が謝って目を伏せる。
「……佐枝が謝ることなんてなにもねぇだろ。たんなる欲求不満を吐き出してただけだしさ。だから」
別にいいさ。
と言って沈黙が落ちた。
自然にしなきゃと焦るのに、どうしようもできない。
終わりだと言われたのに、手が伸びてしまう。
だって―――高校の時からずっと、好きだったんだ。

好きだ、なんて言えないけれど。
姉夫婦を亡くした佐枝に、まだ通常の生活を送れないらしい姪を育てている佐枝に、俺がいま告白したところで負担をかけるだけだからなにも言わないけど。
言う勇気もないけど。
情けない。わかってる。いままで見てるだけで、こうして何度かでも触れあうことが出来たのは幸運だったんだ。
「……あの」
言えないけど。思い出が欲しくて。
女々しいとわかっている。
バカだと愚かだとわかっている。
それでも、最後に。
「……頼みが、ある」
「なに……?」
「―――……一度だけ、で……いい」
最後に。
抱いてほしい。
好きだと言えもしないくせに、そんなことを言って。
部屋に広がる沈黙。
そして―――……。


***


「優斗さん、へーきだって。急がなくて大丈夫だよ」
もう何年も前の恋のかけらを思い出したのは懐かしい名前を傍で聞いたからだろうか。
俺は彼のことを"優斗"なんて親密に呼ぶほどの関係ではなかったけど。
よくある名前だ。
なのに、思い出してしまったのは何故かな。
ちらりと横を見るとすごく綺麗な男の子でびっくりしてしまう。
「もう着くの? じゃぁこのまま喋ってようよ」
まるで恋人とでも喋っているような声の甘さ。
でも電話の相手は男のようだしな。俺とは違うか。
「―――尚樹」
寒さに少しだけ白い息を吐き出していたら俺を呼ぶ声。
軽く手を振って現れた翔に頬を緩めて駆け寄る。
「待たせたな」
「ぜーんぜん」
「飯どこ行く?」
「んー。翔の行きたいところでいいよ」
話しながら歩きだして、
「優斗さん、ここ〜!」
さっきの男の子の声が響いてきて、意味なく振り向いた。
「―――」
捺くん、と笑っているのはスーツ姿の男で。
ふたりは親密そうに笑いあって、"優斗さん"が"捺くん"の頬に触れて冷たいよ、と言っていて。
「じゃあ優斗さん暖めてよ」
「いいよ」
そうあっさりと―――暖をとるように手を繋いでふたりは歩き出した。
街の真ん中。たくさんのひとがいるのに、一目なんてまるで気にならないように。
「尚樹? どうした?」
目を見開いていた俺に翔が呼びかける。
ハッとして、首を振った。
「なんでもない」
笑って、翔の手を握った。
翔は怪訝そうに首を傾げる。
「いいのか?」
「いーだろ。たまには」
寒いしさ、って言えば、翔も笑ってぎゅっと握り返してくれた。


―――彼が幸せそうでよかった。
そう、心から想った。



☆おわり☆

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