12月2日


『二人で話していて、自分に対し若干緊張気味な忍くんを小動物っぽいと思った涼が、どうすれば懐くかなって思う話が読んでみたいです。』


***


ピンポーンと寮部屋のドアチャイムを鳴らして数秒、はーい、とドアが開いて忍ちんが顔をのぞかせた。
そして俺を見て固まる。
「こんばんは、忍くん。嘉信いる?」
「え、えっと、あの嘉信くんはいま出かけてるよ」
「そうなんだ? 来るって言っておいたからいると思ってたら」
「……一時間くらいで戻るって言ってたけど」
「そっか。じゃあ待ってもいい?」
「えっ」
え、って……。傷つくなぁ。顔が赤いからイヤってわけじゃないんだろうけど、緊張全面に押し出した忍ちんは目を泳がせて部屋へと視線を走らせて俺を見る。
「ダメ? どっちにしろ一時間後にはまた来るし。忍くんともお喋りしたいし」
ね、って笑いかけたら忍ちんは何故か顔を真っ赤にさせて一歩後退りした。
なんなんだろう、この反応。毎日顔を合わせてるのに。
三人で喋ってるときは普通なのに。俺とふたりきりはいやってことだったり?
それだったら凹むなぁ。
「……っ、え、え、あの」
目をきょときょとと動かしてどうしようどうしようと口を開いては言葉をなさないまま閉じてを繰り返す忍ちん。
その様子は可愛らしくて、たまには嘉信抜きで喋ってみたいなって思うし、それに嘉信とは仲良くしてるんだから俺とももっと仲良くなってほしいなぁって思わずにいられない。
忍ちんが俺に懐いてくれるにはどうすりゃいいのか。
考えて、あ、っと俺はブレザーのポケットにいれていた眼鏡を取り出すとかけた。
「忍くん」
「へ。あわわわ」
あわわわ、ってなんだろ。
内心笑ってしまいそうになりながらも手を伸ばしてドアノブを握り締めてる忍ちんの手を包み込むように触れた。
「……っ」
「"確かに俺は生徒会だけど、だからといって一般生徒となんらかわりない。俺が誰と喋ろうが俺の自由だろ? 俺は君と仲良くなりたいと思ったんだ。それを咎められる言われはない。君が拒否するのなら別だけれど。君自身はどうなんだい?"」
忍ちんの顔を覗き込んでじっと見つめて、ちょっと意識して甘く言ってみる。
これは忍ちんの大好きな携帯BL小説"麗しの書記様"の主人公である間宮のセリフだ。
どうやら忍ちんは眼鏡をかけた俺が間宮のイメージと近いみたいで。
忍ちんの大好きな間宮のモノマネでもしてみれば大喜びして一気に仲良くなれたりしないかなーなんて。
「……」
「……」
なんて。
俺と忍ちんの間に沈黙が落ちる。
フリーズしてしまったように忍ちんはまばたき一つせずぽかんと口を開けて。
「……忍くん?」
おーい、と忍ちんの目の前で手を振ってみる。
と、ボンと火が吹きそうなくらいに、人ってこんなに真っ赤になれるんだなってくらいに真っ赤になった忍ちんが、
「ぼぼぼぼぼ」
「ぼぼぼぼぼ?」
「ままままま」
「ままままま?」
「おおおおお」
「おおおおお?」
壊れたロボットのようになってしまったかと思うと。
「ぼ、僕だって、間宮様と仲良くしたいですが僕にはまだ心の準備がっ、でも間宮様が好きなことには変わりないんですっ。本当に大好きなんですっ、でもごめんなさいっ!! 気弱な僕を許して下さいっ」
いきなり叫んだかと思うと、俺の手を振り切って一気に自室へと走り去った。
バタンとしまるドア、そして鍵の閉まる音。
俺はひとり取り残されて。
「……え」
どうしよう、と。
「……忍ちんどんだけ間宮好き」
そんなイメージ被ってるのかなぁ、と。
はてさて忍ちんの部屋のドアをノックすべきか、中で待つべきか、出直すべきか、としばらく逡巡したのだった。


*おわり*

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