12月24日


「こうにい。これあげる」
クリスマスイブと言えばこどもならはしゃがずにはいられないだろう。
クリスマスを明日に控え、サンタを待つ前日。
幼稚園の年長になっていた智紀もサンタ帽をかぶって浮かれていた。
家族ぐるみで仲がいい俺と智紀の家。
イブの日にパーティをするのは恒例のことで、その年のイブも例年通り。
まだ小さいこどもにとって一年前のことなんて覚えてるようで覚えていないことが多い。
だから俺が今日はイブではあるけど俺の誕生日でもあると言えば智紀はつぶらな目を大きく開いて驚いていた。
こうにいお誕生日なの、と呟いたかと思えばバタバタと俺のもとを離れていき、すこししてマフラーを手に戻ってきた。
そしてそのマフラーを俺の首にかけた。
「これこの前作ったんだよ。今日初めてつかったばかりだから、新しいから。こうにい、これあげる。お誕生日プレゼント。こうにい、おめでと」
幼稚園で指編みで作ったのだと会って早々に見せられていたマフラーは濃淡な二種のブラウンの毛糸のマフラーだった。
「ありがとう。でもこれは智紀が初めて作ったものだろ? お前が持ってろ」
可愛いマフラーは暖かく気持ちだけで十分だと智紀の首にかけてやる。
でもまたすぐに俺の首にかけられた。
「こうにいにあげる。新しいのじゃないからいや?」
「いやじゃないけど。いいのか? せっかく作ったのに」
「うん、いいよ。来年はちゃんと用意しておくね」
素直で、だがまわりの同い年の子供に比べれば大人びていて、だけどもやっぱり子供らしく。
楽しみにしててね、と笑う智紀に俺も笑って頷いた。


***


「はい、これ。おめでとーございまーす」
棒読みか、と言いたくなる口調で渡された箱。
そんなに大きくはないが小さくもない薄い箱はラッピングされている。
今の時期はクリスマスカラーのラッピングが多いが、手渡されたものは濃紺の包装紙に淡いクリーム色のリボンが掛けられていた。
開けてみれば中身は手触りのいいダークブラウンのマフラー。
「まぁあんまりつける機会もないだろうけど。毎年毎年請求されるからいい加減ネタ切れ。すみませんね、そんなもので」
風呂上がりでガウンを羽織った智紀は相変わらず適当過ぎる程度で髪を拭き終え缶ビール片手にソファに座った。
「いや。ありがとう。で、手編みか?」
「は? 見ればわかるだろ。既製品デス」
口角があがる俺に智紀は呆れたようにビールを飲む。
「ふうん」
もう二十年近く前になる同じ日のことがつい昨日のことのように甦ってきた。
あの頃はこいつも天使のように可愛かった。
「……あのね。あれは紘兄が"イブなんてただのクリスマスの前日ってだけだろ。今日は俺の誕生日なんだぞ"って俺にしつこく言ったからあげたんだから」
ため息混じりに言われた言葉に、いまもらったマフラーをたたみテーブルに置いた。
「へぇ。覚えてるのか?」
「プレゼント請求されたのは。俺の最初で最後の手作りマフラーだったしね」
「あの頃のお前は可愛かったな」
「よく言われてました」
白々とビールを飲み続ける智紀からビールを奪い、引き寄せる。
視線が絡まったのは一瞬で、すぐに舌が絡み合う。
ガウンの中へと手を差し込んで触れた素肌は湯あがりだからか少し体温が高く感じた。
濡れた素肌にもっとちゃんと拭いてこい、と言いたくなる。
こいつは本当にどうでもいいことにはズボラだ。
腹部をなぞり、下肢へと触れまだ反応を見せていない半身を握りこむと、対抗するように俺に触れてくる手。
負けず嫌いなその手は巧みに動き刺激を送ってくる。
舌を絡めあわせたままソファへと押し倒して、今度は芯をもちはじめた互いの半身を擦り合わせるように密着させる。
「……っ、は……」
艶めいた声を聞きながら唇を離し首筋へと移動し、噛みつけば小さく呻いて至近距離で俺を睨む目。
だが今日が誕生日だから大目に見るのか特になにも言わない。だから二度三度噛めば頭を叩かれたので智紀の半身を強く握ればさらに睨まれた。
笑いが漏れ、智紀の耳元に唇を寄せる。
「―――」
プレゼントの礼、とそしてもう一言囁けば、睨みつけていた目は胡乱なものになって、しかたがないように、「―――」と言葉が返ってくる。
それにまた笑いが漏れながら空いている手を後孔へと這わせた。
―――本当に、こいつはバカでかわいい。
なにも理解していないことも。

それでも智紀が俺のもので、俺が―――こいつのものであるという事実はかわらない。

扇情的に俺を煽る智紀の中へと身を沈めていった。


☆おわり☆

prev next

TOP][しおりを挟む]