12月18日


"ラブ甘クロのデレ"

DKなふたり。


***


「悪い。付き合えない」
偶然だった。
掃除の時間、ゴミ捨てへ焼却炉へときてみれば少し離れたところによく知った男と、下級生らしい女生徒がいて話しこんでいた。
それがどういう状況か。緊張に顔を強張らせた女生徒を見ればなんとなく察せられて、そして聞こえてきた断る言葉にやっぱり、と思った。
修悟はゴミ箱を片手にそっと様子を見る。
女生徒は落胆していて目を潤ませていた。
可愛い女の子だ。男なら告白されて悪い気はしないだろうに、告白された男―――朱理は無表情だった。
「……あ、あの、黒崎先輩と付き合ってるって本当ですか」
諦めきれないと言った様子で女生徒が朱理を見つめる。
「本当だ」
あっさりと迷いなんてかけらもなく朱理は肯定した。
この学校で朱理と修悟が付き合っていることはみんなが知っていることだ。
男同士―――と騒がれたのは最初のころだけで、いまはもう慣れてしまったのか珍しがられることもない。
それでも一年生にとってはそうでないのだろう。
男同士なのに、と女生徒が目で言っているのが伝わってくる。
「……なんで」
女生徒がさらになにか言おうと口を開きかけて、それがすべて言い終わる前に朱理の声が響いた。
「黒崎修悟が好きだからだ」
まっすぐな言葉。
「だから君を好きになることはないから」
容赦なく言いきって、それじゃあ、と朱理はその場を立ち去る。
修悟は慌てて校舎の影に隠れたのだった。


***


「お前鬼だよな」
毎日毎日朱理か修悟か。どちらかの家に寄るのが日課となっていた。
机に向かって勉強をしていた朱理が手を止めて振り返る。
朱理のベッドの上で寝転んで雑誌を読んでいた修悟は「ドSに決まってる」とぶつぶつなおも呟いた。
「……お前は本当脈絡ないな」
呆れたように嘆息する朱理はまた参考書へと目を落としシャープペンシルを動かしはじめる。
その様子を修悟は眺め、その名を呼んだ。
「なに」
「いつまで勉強してんだよ。こっち来いよ」
「いま勉強してる」
「いーから来いって」
ベッドの上に起き上がり胡坐をかきながら言えば、ようやく朱理が重い腰をあげる。
そばへ来るとベッドの端へと座った。
「お前さドSだろ?」
修悟はなにがおかしいのかニヤニヤと笑う。
告白されていたところを見ていたという気はないが、それでも容赦ない一刀両断ぶりに女生徒には悪いがからかいたくてたまらなかった。
朱理は表情を動かすことなく胡乱に修悟を眺め―――。
「じゃあお前はドMだろ」
ぐるり、と反転した視界。
うっすら笑う朱理が真上に見え、修悟は目を細めた。
「俺はドMじゃねえ。お前はドSなだけだ」
冷静沈着で真面目。落ちつきすぎて年誤魔化してるだろ、と同級生から言われることが多い朱理の大人びた顔を下から眺める。
眼鏡越しでも朱理の整った顔立ちはよくわかって、告白されるのも納得できる、と密かに修悟は思った。
「鬼とかドSとか失礼な奴だな」
修悟の顔の横へと手をついている朱理はとくに不快そうでもなく言う。
「事実だろ」
「どうしてそう思ったのか聞きたいね」
「そりゃ」
あんな可愛い女の子をあっさり断るところだよ、と言いそうになってやめた。
「性格悪そうなツラしてるからだろ」
「本当に失礼なやつだな」
「でも」
修悟は手を伸ばし朱理の襟元を掴むと力任せに引き寄せた。
ぶつかるようにして触れ合う唇。
そのまま修悟から舌を差し入れた。
絡みあわせて粘膜を刺激して、されれば、若い身体はあっという間に疼きだす。
「―――嫌いじゃない」
そしてたっぷり堪能した後、言った。
一瞬虚をつかれたように朱理が目を見開き、目を細める。
鬼でドSのヤローにも可愛いときはあるよな、と修悟は思いながら、"不器用バカなりにデレてるな"なんてことを思われてるとも知らないままもう一度唇を重ねたのだった。


☆おわり☆




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