12月16日


"わかめ酒"


***


今日の捺くんは妙にそわそわしている。
いいお酒が手に入ったんだー上がったら飲もうね、とお風呂に向かった捺くん。
その目はキラキラとなにかを期待しているような感じだった。
なにかいいことあったのかな、なんてリビングでくつろぐ。
読みかけの小説を開いて数十分。いつもより長風呂で捺くんが戻ってきた。
「優斗さん! 飲む? 飲む?」
「うん」
勢いよく訊いてくる捺くんに、やっぱりどうかしたのかなって不思議になる。
捺くんはキッチンへと走っていそいそとお酒を持って来た。
「じゃーん!」
「……へぇ、すごいね。どうしたの」
捺くんが手にしてるのはプレミア必須の焼酎だった。
入手困難な有名な焼酎。
「電話抽選で! あたっちゃったよ!」
「すごいね!」
「でしょ! これ優斗さんにお歳暮ー!」
「えっ」
「えへへーいつもお世話になってるからね」
「そんな気にしなくていいのに」
「いーの! 俺も飲んでみたかったっていうのもあるし! あ。でもね、優斗さんには特別サービスがあるんだ!」
「特別サービス?」
「そう!! 俺がこのプレミア焼酎をさらにレベルアップさせて優斗さんに提供いたします!」
きりっと真剣な表情をする捺くん。
レベルアップ……どうするんだろう。水割り? 氷が特別だとか?
なにか特別なグラスを用意したとか……。
「優斗さん、ちょっと目をつぶって。俺がいいよって言うまで待ってて?」
「……うん、わかった」
言われるままに目を閉じる。
いったいどんなサプライズがあるんだろう、とちょっとわくわくしてくる。
なにか用意しているもの音がしてきて―――やっぱりお酒とプラスしてなにか買ってきたのかなって気がしてくる。
それからしばらくして、
「いいよー」
と声がかかった。
俺はゆっくりと目を開き。
「……」
「優斗さん! どうぞ! 飲んで!」
「……」
「どうぞ!」
「……あ、うん」
床に正座している捺くんの傍に恐る恐る座る。
「……」
俺の視線はソコにくぎ付けになる。
プレミア焼酎がなみなみとそそがれていた。
―――捺くんの股間に。
ぴっちりと隙間なく太腿をつけて正座して、捺くんの半身はしっかり股に挟まれて。
そして出来た股間の三角スペース。
そこにお酒は注がれていた。
「……」
これは―――ワカメ酒……だよな。
「優斗さん遠慮なく!」
「う、うん。頂きます」
捺くんが張り切ってるのにひるむわけにはいかない。
いや別にひるんでるわけじゃなくてちょっとびっくりしたっていうかなんでわかめ酒?
疑問に思いながらも顔を寄せる。
ワカメ酒なんて初めてだからどう飲めばいいのか悩むけど、これはもう一気に行くしかないな。
顔をうずめるようにして舌を伸ばしてお酒をすする。
ずずず、と飲んでいると、
「このためにちゃんと毛全部剃ったから!」
と捺くんが言ってきて思わず吹きだしかけてむせた。
「大丈夫?! 優斗さん」
「だ、大丈夫」
……そう言われれば確かにない。
残り少しのお酒をどうにか飲みつつちらりと捺くんを見上げたら期待するように俺を見てた。
「……」
「美味しい?」
「うん」
キラキラした目で俺を見つめてる捺くん。
「……」
これは、あれかな。
いやそうだよな。わかめ酒の時点で、うん。きっとそういうプレイなんだろう……。
と、肌を舐めようとしたら。
「おかわりいる? よね!」
「え」
「よいしょ、と。はい、どうぞ」
また焼酎を股間へとそそいだ。
「……ありがとう」
飲み干したらフェラに移行してエッチという流れじゃないのかな。
不思議に思いつつおかわりを飲み、そしてそのあと3回くらいおかわりをした。
「―――ちょっとシャワー浴びてくるね! そのあと俺も飲む! 一緒飲もうねー! 優斗さんこのままロックでいい? 俺、お湯割りにしようかなー」
そう言いながら、すぐ戻ってくるね!、とバスルームへと消える捺くんに、俺は―――じっとプレミアム焼酎を見つめた。
本当にわかめ酒しただけなんだ。
そっか……。
いや、別に残念とかじゃないし。
まぁいつでも見れるし。というか剃ったらわかめ酒じゃなくなるような。
……美味しかったからいっか。
きっと誰かに入れ知恵されたんだろうけど、わかめ酒なんて……なかなか体験できないことだし……うん、いい思い出になるだろう。
「……おつまみ何かあったかな」
お湯割りの準備と、なにか肴がないか確かめるためキッチンへと向かったのだった。


☆おわり☆

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