12月12日


″去年の優斗が佐川と女子社員とランチが面白かったので、女装した捺と優斗のデートに佐川が鉢合わせしてほしいwww″
″他の方もあったと思いますが、去年の優にーさんと会社の社員さんの話が面白かったので、今年は女装した捺くんとのデートを目撃されちゃう!!的な話がいいです(*^_^*)″


デート、ではないですが・・・。


***



今日は12月中旬の金曜日。
忘年会シーズンとあって人が多い多い。
「佐川くん! 佐枝さん二次会誘ってよね!」
「佐枝さん来ないなら二次会なんて用ないんだからね!!」
そんな忘年会。今回は俺が幹事。んで、一次会は9時を回って終わり、次はカラオケにでも行くか〜!となってる。
んだけども、さっきから女性社員のみなさまの攻撃が痛い。
「はいはい、わかってますよー……」
ラブリングをはめてきてるっつーのに相変わらず社内で人気な佐枝先輩。
怖いお姉さん方の圧力に首をすくませながら先輩のところに行く。
少し離れたところにいた佐枝先輩はスマホを弄ってて、どうやらメールでもしてるみたいだ。
「せんぱーい! 今日は二次会来てもらいますよ!!! 先輩が来ないと俺ボコられるから絶対来て下さいよ!!」
ほんっと女ってのは怖いからな!
二次会を楽しく過ごすためには佐枝先輩が必須だ。
「……ああ。途中で抜けるかもしれないけどいいか?」
「一時間でも居てくれたらOKっす。こっそり帰って下さいね!」
「はいはい」
スマホをしまいながら小さく笑う先輩にホッとする。
俺は待機中のみんなへと二次会の場所を説明して、誘導するように歩き出した。
俺の隣を歩く先輩にはもれなく結婚適齢期な女性社員がまとわりついていたのは言うまでもない。


そして二次会のカラオケへ向かっていたら、佐枝先輩が急に立ち止まった。
スマホをチェックして表情がいっきに華やぐ。
「佐川、悪い。俺やっぱり帰る」
「はー……い? はぁ? ダメっすよ!! 先輩!!」
「えぇー! 佐枝さん帰っちゃうんですかー!?」
「二次会行きましょうよー!」
いきなり帰る発言にいっきにヒートアップする女性陣。
「みんなごめん。ちょっと急用で。二次会みんなで楽しんで。佐川―――これ」
さっとさりげなく先輩が俺に諭吉を握らせた。
「あざーっす!」
もらえるものは遠慮なく!が俺のモットーだ。
二次会の足しにするべく諭吉さんを財布にしまってる間に先輩は女性陣をにこやかに振りきって「それじゃあ」と軽く手を振ると走って行ってしまった。
「ちょっと、佐川! どういうことよ!」
「佐川、ちゃんと佐枝さん連れてこいっていったでしょ!」
「……すんません」
怖い、マジで怖い。
へこへこ謝るのみ。
―――先輩ぜったい彼女から連絡あったな。今日はどうやらあの美少女彼女ちゃんも飲みに出てるらしいからどっかで落ちあうんだろう。
いいなぁー!
いつか彼女ちゃん紹介してもらって、さらに美少女のお友達を紹介してもらいたい。
俺も彼女欲しい〜!!!!
「あれ、佐枝さん……?」
先輩と別れて10分ほど。もうすぐ予約してたカラオケ屋に着くってところで平川女史が声を上げた。
一斉にみんなが平川女史の視線を辿る。
「あ」
「うわ」
「まじで」
「えー」
「……先輩、ずりぃ」
車道を挟んだ向こう側の居酒屋の前に先輩の姿を発見。
しかも先輩のそばには―――以前写メで見せてもらった美少女が!!
な、なんだあの美少女!!
「モデル? 背、高っ」
「ちょっと細すぎ……」
「なになんなの、顔ちっちゃいし……」
「可愛い……」
「若い。若い……」
「負けた……」
女性陣だけでなく俺含め男性陣までもが先輩と美少女のカップルに目を奪われ唸ってしまう。
だって! 先輩ズルイ!!!
写真で見るよりも数倍の美少女。
花柄のワンピにショートダッフル。生足? 生足なのか、すっげー細い脚にショートブーツ。
きっとなに着ても似合う。だってめちゃくちゃ可愛いもん。
前写メで見たときより短い髪型はくるんと肩のラインでカールして……。
「せ、先輩〜!!!」
俺は思わず手を振って叫んだ。
そんな俺に気づいたのは先輩の彼女ちゃんで。こっちを見て目が合う。
遠目に見ても可愛い可愛い!
そんな彼女ちゃんが先輩の手を引っ張って俺の方を指さす。
「せんぱ〜い!!!!」
先輩はようやく俺に気づいた―――くせに俺のことは一瞥だけで、甘ったるい満面の笑みを浮かべて彼女ちゃんになにか話しかけてる。
彼女ちゃんは先輩を見てそして俺を見て、笑顔を浮かべると手を振ってくれた。
「……か、かわいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
なんだあれは天使か!!!
「せ、先輩! 俺もそっちに混ぜてくださいいいいい!!!」
車道を渡れば俺も向こう側に!!
と叫ぶと、
「二次会楽しめよ〜」
って先輩は楽しそうに叫び返して。
「えええ! 俺も美少女ちゃんとお喋りしたいですううう!! お友達紹介して! お友達!!!」
必死に叫ぶ俺に、彼女ちゃんは楽しそうに笑ってて、そんな彼女ちゃんに先輩がなにか耳打ちして、そしてまた笑って―――手を繋いで「またな」と歩き出す。
身体を寄せ合って歩く姿はふたりだけの世界って感じだ。
あっさりさっくり俺のことスルーで俺の世界は崩壊って感じで。
というか―――車道挟んでも伝わってくるラブラブオーラに驚いた。
先輩のあの普段の優しい雰囲気以上の甘くて優しさMAX愛情MAXな笑顔。
「……あれは入り込めないわね」
「佐枝さんって人前でイチャイチャしないひとかと思ってた」
ぼそりと誰かが呟いて。
「佐川! 行くよッ!」
「アンタ今日はちゃんと接待しなさいよね!」
「あ〜っもうどこかにいい男いないのかしら」
俺は荒れ果てた女性陣に引きずられるようにカラオケ屋に入っていったのだった。

ああ、俺も美少女とお知り合いになりたい!!

『先輩、今度彼女ちゃんのお友達の美少女紹介してください一生のお願いです』
と、二次会中にこっそりメールをした。
先輩からの返事はなかったけど、俺も美少女彼女いつかゲットしてやる〜!!!
決意を新たに焼酎一気飲みしてとりあえず歌いまくったのだった。


☆おわれ☆


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