12月10日


優斗さんが痴漢されるか、セクハラされて捺くんに慰めてもらうお話がみたいです!"
優斗さん受け!″


社会人捺と優斗です。


***



え―――。

異変を感じたのは仕事帰りの満員電車にのってしばらくしたころだった。
満員電車なんだから密集していて当然なんだけど―――違和感を覚えた。
俺の背後にぴったりとくっつくようにして立っているスーツ姿の男。
俺より少し身長は高いようで見下されている視線を感じる。
そして臀部にあたる掌。
そう、多分掌だ。
「……っ」
違和感から不信感にかわりかけたところで、臀部を掴まれた。
思わず息を飲む。
まさか、というイヤな予感が過った途端に手が動く。明らかな意思を持って触れてくるその手に鳥肌が立った。
俺は男で、触れてくる相手も男。
男同士、というよりも、紛れもない痴漢行為に不快感が一気に湧き上がる。
ギュッと拳を握りしめ肩越しに男を睨みつけた。
俺と歳はたいして変わらなそうな男。平然とした表情でいまだに触ってくる手を掴むと捻りあげた。
「ッイ」
顔をしかめる男。俺たちを不思議そうに見る周りの乗客。少しして電車は駅につき、空いたドアから俺はその男を蹴りだした。
「恥を知れ」
そしてドアが閉まって深いため息をついた。
まさか―――この歳で同性から痴漢されるなんて。
気分が重くなって、痴漢されたなんてことは言えないけど、癒しが欲しくて他愛のないメールを捺くんへと送った。


***


「優斗さん!」
改札を抜けてかかった声に驚く。
「捺くん」
スーツ姿の捺くんに駆け寄る。
「まだ帰ってなかったの?」
俺が電車の中でメールしたときもう電車を降りて帰っていると返事があったはずだ。
首を傾げれば捺くんは「一緒に帰ろうと思って待ってたんだ」と目を細める。
「寒いしよかったのに」
「いいんだって。俺が優斗さん待っていたかったんだから」
ふっと向けられる笑みは年々男らしさが増してきている気がする。
帰ろう、とそれでも昔と変わらない屈託のない笑みもまた重ねる捺くんと帰路についた。


***


「優斗さん、なにかあった?」
「……え?」
もうすぐマンションというところで心配気に捺くんが訊いていた。
「いや、なんとなく。メールもらったときにちょっと違和感あったっていうか」
「……メールで?」
痴漢にあったあと送ったメール。
特にいつもとかわりないメールだったはずだ。
「そ。俺、優斗さんのこと愛しちゃってるからなんでもわかるんだよね」
「……」
一瞬あぜんとしてしまい、次いで顔が一気に熱くなるのがわかった。
そんな俺を捺くんはおかしそうに笑う。
「捺くん……」
「そんな照れなくてもいいのに。優斗さんだっていつも俺に言ってるだろ?」
「そ、それは」
言ってはいるけど。
ごにょごにょと口の中で言いながら視線を逸らし、辿りついたマンションに入っていく。
「それで? なんかいやなことでもあった?」
エレベーターの中で隣に立つ捺くんから強い視線を感じる。
「……まぁ少し」
「なに?」
「……」
痴漢された、って言えばいいんだけど。いい歳したオッサンが……って感じだし。
迷ってる間にエレベーターは俺たちが住む階についてしまった。
「ゆーとさん?」
「うん……」
鍵をとりだして、開けて、さりげなく、
「痴漢された」
とようやく言った。
「え?」
「……電車の中で痴漢された。少しだけだけど。ほんと少し。すぐ撃退したし」
「……優斗さん」
「こんなオッサンを痴漢してどうするんだろうね。まぁ……相手も似たようなオッサンだったんだけど……」
思わずため息がこぼれると、不意に引き寄せられ抱き締められた。
「どこ触られたの?」
「……尻のあたりを少しだけ。本当に少しだけだから」
「そう。気持ち悪かったよね。俺が一緒にいたらそいつぶっ飛ばしてやったのに。ごめんね」
「捺くんが謝ることなんてなにもないよ」
「だって優斗さんが可愛すぎるから痴漢されたんだし。それって俺の責任だからさ」
「……可愛いって40になる男に……」
可愛いと言うなら捺くんのほうが100万倍可愛い。そりゃいまは可愛いよりもカッコイイのほうが大きいけれど。
「可愛いよ」
笑顔の捺くんが言いきって距離を一気につめた。
触れ合う唇は優しくて、二度触れて離れてを繰り返す。
思わず捺くんの腕を掴むと、もう一度触れ合って今度は舌が入り込んでくる。
ぬるりと絡み合う舌。キスなんてもう数えるのが無駄なくらいしてる。
なのに飽きることなんてまるでない。
力が抜けるくらいに気持ちがよくて、擦れ合う感触にもっと深く交わりたくなる。
「ん……」
まだ玄関あがったばかりのところで水音がたつくらいのキスを交わす。
「……っ」
ふ、と腰に回っていた手が下に降りた。
「―――この辺?」
「……うん」
「むかつくなァ痴漢のやろー」
「……ほんと少しだけだよ。すぐに手を掴んでやめさせたから……っ」
ぎゅ、と臀部を掴まれる。電車の中で見知らぬ男にされたのと同じなのにまったく違う。
「こんな可愛い顔見せてないよね?」
「……っ、当たり前……。でも本当可愛くな……っ……ンっ……捺く、んっ」
また唇を塞がれ、そして不埒に捺くんの手が動き出す。
しょーどくしてあげる、とキスに合間に囁かれた言葉に俺は消毒なんてするほどのことじゃないのに、と思いながらも熱情に逆らえずただ身を任せたのだった。


☆おわり☆

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