閑話:ベビードールとにー。


「くっそイラネー‥‥」
ガサ、と紙袋から取り出したソレを眺め俺は床に放り投げた。
今日は会社の歓迎会だった。
歓迎会は幹事のハイテンションのせいでかなりの盛り上がりになった。
歓迎ビンゴ大会があり、新入社員のやる気をあげるためなのかなんなのか、わりといい景品が揃っていた。
1位が空気清浄機、2位がDVDポータブルプレイヤー、3位がギフト券で、それ以下はまぁいろいろあって。
んで、俺は6位になった。
ギリギリ景品がもらえる上がりだった。
ちなみに6位が俺になった瞬間男たちからは俺に対して罵声を浴びせ、女性からは爆笑と「今度写メってきてー」とご命令をいただいた。
いや、用途ないです。
ぶっちゃけめっちゃイラネーんです。っていう6位の商品はピンクのふりふりベビードールだった。
「‥‥」
誰が着るよ。
俺はゲイだし彼女もいない。
ノンケで彼女持ちならベビードール着てもらって楽しい夜を過ごすってのもありありなんだろうが、ゲイな上に一人身寂しい俺にベビードールなんてゴミでしかない。
「あ〜ビールでよかったのになー」
ちなみに俺のあと、7位はビール2缶だった。
ため息をつきながら風呂に入りにバスルームへ向かう。
視界の端に子猫のにーがカリカリと爪でベビードールを引っ掻いているのが目に映った。
「それは食いものじゃないからなぁ」
「―――にゃあ」
歓迎会で飲み過ぎたせいでぼーっとした俺はすっかり着替えを忘れて風呂に入ったのだった。

***

腰にタオル巻いただけの裸の状態。
自分んちだし、風呂上がりだし問題ない。
着替えを持っていくのを忘れてたから腰タオルの状態で髪を乾かしてリビングへと戻る。
くっそ眠いから、とっとと寝よう。
あくびを惜しみなくしながらリビングのドアを開けて人の気配に気づいた。
こんな夜中に人間になったのか、あいつ。
つーか、にーが人間になってしまうタイミングってなんなんだろ?
風呂に入るまでは子猫だったのに、いまは人間になっている(猫耳と尻尾は健在だけど)にーが視界に入り、俺は声をかけ、
「おい、にー‥‥うぇっ!?」
かけて、引き攣った。
俺はもう眠いから寝るからなー、ってそう言いたかったけど叶わない。
「にゃー! リョータ!」
先月言葉をわずかながらも喋ることをしだしたにーが俺に抱きついてくる。
「ぎゃー!!! お、お前な、なになに!?」
いっつも人間になったにーは俺のシャツを着てるんだけど、それが今日はっ!
慌てて俺はにーの肩を掴んで自分から引き離す。
これはマズイ危険だ!!!!
本能がMAXレベルの危険を察する。
というか引き離してしまったことによって俺の視界にまざまざと入る―――ベビードール姿のにー。
フリルがふんだんにあしらわれた下着までつけて、ピンクのシースルーの可愛いベビードールを纏っている。
にーは雄だ。だけど美少年で線が細いからその辺の女性なんて目じゃないってくらいに似合ってて。
「リョータ、リョータ!」
と俺に抱きつこうとしてくる。頬すりすりしてこようとする。
やーめーろーーーーー!
俺はいま腰にタオルだけという状態だ。
ベビードールなんてゴミだったはずなのに!
ゴミは着る人が着れば黄金の宝になるものだったのか!―――ってそうじゃねぇ!!
「おま、お前、これ脱げっ! なんでこんなの着てるんだよ!」
にゃ?、と不思議そうに首を傾げるにーの肩に触れベビードールの肩紐に手をかけ脱がそうとした。
「‥‥」
え、エロー!!!
や、やばい。こうやって脱がしてるとイケナイことしているような気がしてくる。
にーの白い肌にピンクのベビードール。肩紐が片方外れかけっっ‥‥、よし!下から一気にめくりあげて脱がせるか。
と俺は肩紐から手を離して今度は裾に手をかけてピラっとめくりあげて、すらりとした太腿さんコンニチワな状態に固まった。
え、エロー!!!
「っ、にー! 脱げ!」
「にゃぁ?」
「これ、脱げっ!!」
自分で脱いでもらえば問題はない、と思ったら大間違いだゾ!
「んにゃぁ‥‥にゃっ‥‥っにゃ」
困ったように、上擦った声を上げながら、着てるんだから着るときはスムーズにいったはずだろうに、脱ぐのに手間取っているにーは肩紐をだらんと外し、裾は大きくひろげ、ナンデスカイッタイ、と言いたくなるように息を荒げている。
「にゃにゃ」
うまく脱げないでいたにーは、不意になにか思いついたように目を輝かせて、パンツに手をかけた。
ふりふりパンツから脱ぐ―――のヤメテー!!
「ストーップ!!」
ノーパンベビードールで乱れた姿ってなにそのプレイ!
俺は焦って、座り込んだ状態でよいしょよいしょとパンツを脱ごうとしていたにーに手を伸ばした。
瞬間、はらり、と腰からタオルが落ちた。
あ―――‥‥。
コンニチワ☆したのは天を仰ぐ不肖の息子。
「にゃぁ?」
不可抗力だ!! 決して勃起したのは俺の意志ではない!! 本能なのだ!!!
そう叫びたい衝動を抑えきれずいままさに叫ぼうとした瞬間。
「にゃー」
嬉々とした声でにーがオモチャでも発見したかのように俺の息子を掴んだ。
「‥‥ひ、イヤァァァ!!!」
生娘か!
っていうくらいの悲鳴を上げた俺にびくっとしたにーの手を振り払い俺はトイレに逃げ込んで。
全裸でトイレっていう情けない状態で泣く泣く親友の右手くんに息子を委ねたのだった。

そして―――。
一発抜いて、寒々しいまでの賢者タイムを長時間終えた俺は恐る恐るリビングに戻った。
「‥‥」
そこには―――ベビードールに埋もれすやすやと眠る子猫が一匹。
俺は深いため息をつき、ベッドへ向かい眠りについた。

***

翌日。
「‥‥」
ゴミ箱行きのベビードールを軽く一時間は眺め、その行く先をクローゼットの隅の隅に隠すように仕舞ったのはココだけの秘密だ。

*おわり*


prev next
6/9
TOP][しおりを挟む