黒猫とにー。@
「いただきます」
土曜の昼近く。仕事も休み遊ぶ予定もないから起きたのはほんの少し前。
朝方二度寝したせいもあるからかいつも以上に寝ていた。
ブランチってやつだなーと思いつつテーブルの上は和食。
とはいっても味噌汁に目玉焼きにご飯っていうシンプルさだけど。
テレビでは若い女の子が多く出ているバラエティ番組があっててちょうど食レポ中。
味噌汁飲みながらそれ見ながらちらり視線を下ろす。
テーブルの傍にはにー用のごはん。
大人しくぱくぱくと猫用ツナを美味しそうに頬張っている。
その姿はどこにでもいそうな猫。猫に間違いない。
半熟目玉焼きに箸突き立てて黄身が流れだしたのを白身に絡めて食べる。
うまい。
焼き加減ちょうどいい、さすが俺。
「……なぁ、にー」
まぁでもそんなことはどうでもよくて、やっぱり食事よりもそばのにーのことが気になる。
にーは「にゃぁ?」と顔を上げた。
口周りについたツナをぺろりと舌で舐めとりつぶらな瞳で俺を見つめる。
「お前、きのう喋ったよな?」
きのう課長が来て―――キスしようとしたとき。
つい流されちゃったよなぁ。だっていつも厳しい課長が妙に可愛い顔してるんだもんな。
そりゃ据膳食わねばなんたら―――ってそれは置いておいて。
「喋ったよな?」
またツナに向き合おうと俺から顔を背けたにーを抱きあげる。
にゃあーってツナを掴むように手をふるにーを無理やり俺に向かせる。
「にー、リョータって呼んだろ?」
聞き間違いなんかじゃない。何回も『リョータ!』って呼ばれたんだから。
「呼んでみて」
じーっと正面向きあうようににーの身体を持ち上げて視線を合わせる。
まだお腹空いているのかツナを気にしつつ、にゃあにゃあ、と尻尾が揺れる。
「呼んだよな?」
「にゃー」
「リョータ」
「にゃー」
「リョータって言ってみ?」
「にゃあ」
もぞもぞと逃げ出すように身をよじりだしたにーに「リョータ」と教えるように顔を近づけて言った。
「―――バカか。そいつが猫の状態で喋れるわけないだろ」
と、ちょっとキーが高めの男の声がした。
男の声?
ん、と固まる俺。
いまこの部屋には俺とにーしかいない。
「……にー、喋った?」
「にゃー」
にゃ、にゃ、とにーは俺から、窓の方へと首を傾けた。
声のしたほうはそう言えばそっちで。
俺も顔を向けると、起きたとき換気のために窓は開けたままでカーテンが揺れているのが目に映って。
「にゃー!」
にーが一声大きく鳴いて、そして。
「よお、久しぶりだな」
また響く男の声。
そろそろと視線を下ろしていくと、パタンと揺れる黒い尾っぽが見えて。
「俺の飯も用意しろ、人間」
何様ですか?っていう発言をしてくれる一匹の黒猫がいた。
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