12月22日


「デート中、ばったり紘一様に合っていじり倒されればいいよふたりとも(´艸`)」


***



「面白かったね、ちーくん」
「本当、よかったです。すごくハラハラして面白かった」
連休の中日。俺と智紀さんは映画を見に来ていた。
クリスマス直前の連休ということもあってかどこもかしこもいつもより人が多い気がする。
「思ってた以上によかったな」
3時過ぎに観に来ていまは夕方。
夕食は外でとろうということにはなっているけど、まだ早いかな。
でも少しお腹が空いていないでもない。
「ところでちーくん、どうする? 買い物でもする? それか早めに食事行く?」
「そうですね。遅くなったら混むだろうし、早めに食べましょうか」
「りょーかい。ちーくん何が食べたい?」
「なんでも」
「俺もなんでもいいなー。なら近くに美味しい洋食屋さんがあるんだけどそこ行く? わりとリーズナブルなんだけどハンバーグとか美味しいんだよ」
「いいですよ」
特に異論もなく映画の話をしながら智紀さんと肩を並べ歩く。
そして映画館を出て、目的地へと向かう途中声がかかった。
「―――智紀?」
俺の隣の智紀さんを呼ぶ声に俺たちは同時に振り返り、
「紘一さん」
と智紀さんが呼んだ。
視界に入ったスーツ姿の男性。眼鏡をかけた柔和な雰囲気をした品の良さそうな男性は見覚えがあった。
確か以前一度だけあったことがある。松原さんのお兄さんだ。
「こんにちは。千裕くんだったね?」
「はい。こんにちは」
会釈する俺に優しい笑顔が向けられる。
こうして見ると本当松原さんと雰囲気が真逆だな。松原さんってちょっと……いやかなりSっ気あるもんな。
失礼だけど、でも合えばいつもからかわれることが多いからそんなことを思ってしまう。
「偶然だね、こんなところで」
「ええ。いまから食事に行くところなんですよ。紘一さんはお仕事ですか?」
「そんなところかな」
「お忙しいと思いますが身体には気をつけてくださいね」
「ありがとう」
松原さんと智紀さんは同い年で幼馴染で二人揃ってるときの智紀さんはいつも以上に砕けてる。
けどそのお兄さんだと年も離れてるしそこまで馴染みないんだろうか。
幼馴染の兄というよりは、どっちかというと上司と部下みたいな空気を感じた。
「呼びとめてすまなかったね」
「いえ」
「―――そうだ。智紀、クリスマスは来ないのか?」
「仕事で忙しいので、すみません」
「だろうね。でも、たまには顔を出せばうちの両親も喜ぶよ。それに俺もたまには直接誕生日プレゼントもらいたいしね」
からかうように目を細める松原さんのお兄さんに、智紀さんは苦笑する。
「申し訳ないです。別の日でよければ今度持っていきますよ」
「冗談だよ。イブは特別なひとと過ごすべき日だからね。それじゃあ失礼するよ。また」
「はい」
高価そうな腕時計を一瞥してから智紀さんと俺に会釈し背を向けるお兄さんに俺も慌てて会釈した。
すぐに離れていく背中を見送って俺たちも再び歩き出す。
「……あの、さっきクリスマスって」
少し気になっていたことを余計なことかもと思いつつ訊いてみる。
「うん? ああ、晄人の家ってさ毎年親しい人を招いてホームパーティすんの。クリスマスに。学生のころくらいまでは行ってたけど、別に強制じゃないしね」
「へぇそうなんですね。で、あのお兄さ……紘一さんってイブが誕生日なんですか」
「そう。イブに誕生日とかいやだよねー。プレゼントふたつもらえるならいいけど」
屈託なく笑う智紀さんに俺も笑って「確かに」と頷いた。
「でもせっかくなら顔だししてプレゼントも直接あげればいいのに」
松原さんの家とは家族ぐるみで仲がいいっていうのは聞いている。
だからそう言えば、智紀さんは不満そうに俺を横目に見た。
「えーやだよ」
「やだよって」
「だって今年は平日だよ、イブも当日も。ただでさえ仕事も忙しいのにいちいち顔だししてたらちーくんと一緒にいれる時間が少なくなっちゃうし」
いーの、とさりげなく触れてきた手が一瞬ギュッと俺の手を握りしめた。
街中で手を繋ぐなんて男同士だしありえない。だけどそんなほんの一瞬のことに馬鹿みたいに俺はうろたえて妙に恥ずかしくて視線を揺らした。
「……別に明日ケーキ買ってクリスマスパーティするんでしょ」
パーティと言っても俺たちふたりだけだけど。
「それはそれ、今年は明日も含めて三日間がクリスマスなんだよ」
「三日間もって……長い。子供ですか」
呆れながらも、クリスマスを一緒に過ごしたいと思っていてくれるのは素直に嬉しい。
でもそれを表に出せるほど素直じゃない俺は話題をかえるように、さっきのお兄さんの話を出した。
「……それにしても、松原さんのお兄さんへのプレゼントって相当悩みますよね」
見るからに上質のものばかり身につけていて、それが当然のように似合っていた。
「そう? いつも適当。お歳暮みたいなもんだよ」
「お歳暮って」
もうちょっと真面目に選んだほうが、と社交性あるくせに変なところで適当なところもある智紀さんに言いかけたらワントーン落ちた声が遮った。
「それにあの人に欲しいものなんてないし」
「―――え?」
「ちーくん」
「はい?」
「お店あそこだよ」
ほら、と智紀さんが指さす先を見る。
俺は―――、一瞬過った違和感を心に残すことなく「なに食べようか」と笑いかけてくる智紀さんに流されたのだった。


*おわり*

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