12月8日


「ロデオでフラグ!千史君のお話がみたいです!」

***


「和佐、どう思う?」
いまだかつてこんなに真剣なちさっちゃんの表情を見たことがあっただろうか。
いやちさっちゃんは昔から真面目でいつだって真剣なんだけど、今回はいつも以上に真剣味が増している。
「やっぱりつけま足したほうがよかったんじゃないか? 大丈夫か?」
ぱっちりな目に長い睫毛、ばっちりひかれたアイラインにアイシャドウ。
だけど基本ナチュラルメイクだ。ほんのりピンクなチークがかわいいけど、全体的には綺麗系な仕上がりだ。
どこでマスターしてきたのか先週末寮にいなかったと思ったら完璧なメイク術を習得して戻ってきた。
それもこれも今日のためだ。
20日には終業式を迎え、みんな帰省していくためにクリスマスパーティを早めにしよう!となったのが今日なんだよね。
生徒会と風紀で……って、もう明らかに明らかにちさっちゃんヤバイよ状態なんだけど当の本人は「渚に意識してもらうんだ」と張り切って用意したのがコスプレだった。
サンタコス。
それも女装。
ちさっちゃんって細マッチョタイプで、身体は締まってるけどラインが細いから女装がよく似合う。
完璧なメイクとウィッグでパーフェクト。
「……いーんじゃない、別に。てかさーちさっちゃん、今日は絶対俺か緑里のそばから離れちゃだめだよ!」
ちさっちゃん発案のクリスマスパーティは女装を可能にするために仮装パーティになっていた。
というわけで俺はちさっちゃんに合わせてトナカイコスだ。まートナカイパジャマ着てるだけだけどねー。
「もちろんだ! 俺のこの美、美、びぼ……う……と生足で……渚を落として見せる!!」
「……ふぁいとー」
確かに綺麗だし、生足まじで女の子レベルっていうか真っ青なっちゃうんじゃってくらいに美脚。
ミニスカにニーハイとかって超ベタだけど……本当ちさっちゃん危険、要注意!
俺の心配なんて露知らずちさっちゃんは意気揚々とパーティ会場である生徒会室に辿りついた。
準備は副会長たちがするって言ってたんだよなー。それはそれでなんか怖いんだけどーっと思いつつ、俺たちは生徒会室のドアを開けた。
「たのもー!」
「ちさっちゃん、それ違う」
緊張してたのか、意味不明な掛け声で足を踏み入れたちさっちゃんがすぐに止まった。っていうか固まった。
「おー日向! すっげーお前似合いすぎだろー。俺負けてんじゃん」
ちさっちゃんの後から顔を出し、納得した。
笑いながらちさっちゃんに駆け寄ってきたのは緑里で―――こいつもまた女装していた。
女装かぶりか!!!
そしてこっちは可愛い系の女装だ。ふわふわウエーブのウィッグに、ちょっと垂れ目メイクにしてんのか守ってあげたい系の女の子な感じ。
「……っ……」
ちさっちゃんは顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせてる。
褒めたいんだけど言葉が出ないのか?
「へー和佐はトナカイ?」
固まるちさっちゃんからあっさりと緑里の視線が俺に向けられて、トナカイの角を掴んでくる。
「そー。……つーか、みんな気合入ってるね」
「だろー? 俺おかしくってさー」
そう笑う緑里だって相当レベル高い女装だけど。コイツの場合はほかの生徒会メンバーに遊びでいじられたっていう可能性のほうが高いな。
それよりも―――。
「「うわー会長きれー!」」
「似合ってますね、会長」
「へぇ……生足いいね」
「……ハァハァハァ」
どういう趣向なのかわからないけどランドセル背負ったショタスタイルな双子書記に、執事服着て腹黒い意味深な笑みを浮かべた副会長に、白衣で値踏みするようにちさっちゃんを眺めてる会計に―――鼻息荒いっつーか鼻血出てますよな俺の上司である風紀委員長。
「な、和佐! この前借りたゲームだけどさ」
「……え? ああ」
ちさっちゃんが緑里と友達になったのをきっかけに俺も友達になって、わりと話があって緑里はよく俺に話しかけてくる。
話振られたから応えていたら、緑里の女装姿に凍りついていたちさっちゃんは返事もろくにしてないのに副会長たちにつれられて奥のソファーへ。
見た目サンタコスのおねーさんが逆ハー状態な感じで、ちさっちゃんに飲み物やら食べ物をすすめてる。
「おい、これ。おいしーぜ」
緑里が俺にグラスを渡してくれて、オレンジ色をしてたからオレンジジュースかーなんて飲んで、吹きだしかけた。
「っ!? お、おいこれって。まさか酒?!」
「うん、そーだけど?」
あっけらかんと頷く緑里に俺は戦慄し、ちさっちゃんを見た。
ま、まずい!
ちさっちゃんはめちゃくちゃ酒弱いんだよ! 正月のお神酒で酔っ払えちゃうくらいに!!
視線の先では一気にグラスをあおるちさっちゃんの姿。
「ちさっちゃん、ストーップ!」
なんて言ってももう遅い。
きょとんと俺を見るちさっちゃんの頬が一気に真っ赤になっていくのを見ながら―――ちさっちゃんの貞操を守りきれるのか、不安になる俺だった。

が……がんばれ、ちさっちゃん!

*おわり*

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