12月12日


「ゆうとさんの受け」
「松原先生と高校生になってしまった優斗くん」


***



「佐枝ひとりか?」
放課後の生徒会室で勉強をしていると顧問の松原先生が入ってきた。
「はい。先生は――休憩、ですか?」
生徒会室は西日がよく入る位置にあって、他の役員なんかは暑いっていうけど俺は冬でも暖かく感じる生徒会室が好きで自習をするのにもよく利用していた。
そしてときおり顧問の松原先生が休憩にやってくる。
松原先生は男の俺でも目を止めてしまうくらい整った顔立ちをしていて、美形っていうのはこういうひとを言うんだなと実感させられる。
だけど普段は生徒たちから無表情で冷血漢とか恐れられている先生だ。
「そー。眠いときは日向で寝るのが気持ちいいだろ?」
窓際に置かれたソファが松原先生の定位置。
俺とふたりきりのときはいつもそこで昼寝をしている。
みんなに恐れられてるけど、実際はそんなにというより全然怖くない。
話しかければ普通に喋ってくれるし、たまに冗談を投げかけられたりするし、
「お前いつもいつも勉強して飽きない?」
と呆れたように、でもどこか面白そうな笑みを向けてきたりもする。
今日はまだ眠くないのかソファには直行せず俺のとなりに腰を下ろした。
「勉強楽しいですよ」
とはいってもいましている勉強はテストに向けてのものだ。
「さすが優等生の佐枝くんな言葉だな」
「……優等生じゃないと思いますけど」
よく優等生と言われるけど、別に普通だと思う。確かに勉強が好きで少し成績はよくはあるけど。
「お前が多少成績悪かったら、俺が教えてやるのに」
「え、本当ですか?」
「ああ。でもお前俺教えなくてもできるからな。残念。成績あがったらなんでもしてやるよ、とか、成績あがった礼に俺に奉仕しろよとか言えるのに」
ぐ、と松原先生が顔を近づけてきた。
―――奉仕ってなんだろう。肩もみでもしてくれるのかな。
頭の端で考えながら、「先生は俺を買被りすぎですよ。俺わからない問題たくさんあるし…」と言えば、松原先生は一瞬目を眇めて口角を上げた。
「佐枝、お前ってさ」
妙に至近距離のままで喋りかけられて、吐息が吹きかかって戸惑う。
「なんですか?」
たまに松原先生は俺によくわからない投げかけをしてくることがある。
ふ、っと松原先生が俺との距離を一歩つめた。
「いい匂いするな」
首筋に一瞬吐息がかかったと思えば、すぐに離れ、あくびをしながら先生は立ちあがった。
「寝る」
「あ、はい」
ソファに向かう先生を目で追い、そして俺はまた勉強を始めた。
だけど―――妙に首筋がくすぐったく感じて、少しだけ集中できなかった。


☆おわり☆

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