04 屋上へ行こう。


『大丈夫?』
『はい』
『そっか、ならいいけど。じゃあ、俺帰るね』
『あ、あの先輩っ』

情事のあとベッドに沈んだ奏くんは身繕いを終えた俺を目を潤ませて見上げた。
綿毛のように細い髪を乱し、華奢で色白の肌はむき出しのままだ。

『なに?』
『あの……っ』

一度だけ、でいいと言ったのは奏くん。
だけど身体を重ねてしまえば欲求が増すのも仕方ない。
ヤる前よりもすがるように向けられた目が切なそうに揺れてる。
それなりに好き、から、結構好き、にランクアップしてもらえたんだろうか。
そんなにヨカッタ?
訊くかわりに俺は手を伸ばして奏くんの頭を撫でた。
頬を染める様子は素直に可愛いと思える。
だけど―――、それだけ。

『またね』

俺がそう告げると一瞬泣きそうに顔を歪めたけど、バイタリティ旺盛らしい奏くんは小さく頷いて、

『……また、誘いますね』

と、微笑んだ。
俺もそれに微笑み返し―――



「はい、もしもし」
『先輩。お電話すみません』

電話がかかってきたのは昼休みに入って30分ほど経ったときだった。
ひとり生徒会室で昼食をのんびりとっていたから周りに気をつかうことなく携帯を取り出し出た。
かけてきたのは奏くん。
男相手の初体験から三カ月経った今も奏くんとはごくたまにセックスをしている。
まぁいわゆるセフレーってやつだな。
と、俺の声が聴きたかった、らしい奏くんからの誘いをその時の気分次第で受ける。
本日はというと明日か明後日会ってくれませんか、ということだった。
一緒勉強しませんか、ということはイコール。

「いいよ。明後日の金曜日でどう?」

最近3回ほど断ってばかりだったから素直に頷けば弾んだ声が響いてくる。
奏くんは自分の方が金曜は早く終わるからと俺の学校まで来る、と言ってきた。

「了解。じゃあ、明後日」

楽しみにしてます、なんていう可愛い言葉を聞いて電話を切った。
―――明後日かー。
奏くんに会うのは久しぶりだ。
一応向こうも遠慮してるんだろう、頻繁に電話はかかってこない。
メールは毎日あるけど。
つい先週まで文化祭の準備、本番と忙しく会っていなかった。
明後日スるとすれば奏くんにとっては一か月ぶりだろう。

「奏くん、結構激しいの好きだからな」

俺以外とはしてないだろうし。
溜まってるんだろうなー、なんてことを弁当箱を片付けながら考える。
俺はまぁ先週連絡をくれたお姉様にお世話になったから事足りてるけど。
さて明後日はどんなプレイをしようかな―――って、いや普通にノーマルだけどさ、と自分で内心ツッコミながら生徒会室をあとにした。
そしてなんとなく、屋上に向かった。
晄人やその彼女と昼食をとったりする屋上じゃなくて、また別の。
極秘入手の一般生徒は出入りできない屋上へ。
一般生徒は出入りできない、はずだったんだけど。

「あれ」

そこには先客がいた。

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