34 のろけ


「クソ気持ち悪い」

週3回入ってるファミレスのバイト。それが午後9時に終わりいまは寒空の中。
今日は同じ出勤だった晄人と並んで歩きつつ寒さに白い息を吐き出しつつ携帯をいじっていたら晄人がとても感情豊かに言った。
心底気持ち悪いんだな、と思えるくらいに。

「風邪?」

夾へと絵文字たくさんのメールを作成しながらちらり横目に見る。
とくにいつもと変わった様子もない。
そもそも晄人が風邪引いたこととかこれまで本当片手で数えるしかない気がする。
熱出ても翌日には快復してるし。

「お前がキモイ」

と、一応心配してあげていればとても失礼な発言だ。
俺のほうへわずかに顔を向けた晄人はうんざりしてますな表情。

「なんだよ、いきなり。晄人くんはどうしていつも失礼なのかな? あれ? 好きな子ほどいじめたくなるとかいう、あれ?」

愛をたっぷりしたためたメールを送信するべくボタンを押す。
晄人の白い目に、アタリ?、と笑顔を向けると、シネ、と返される。
夾といい晄人といいツッコミ厳しいよね。
すぐには返事を受信してくれないだろう携帯をポケットにしまう。

「朝から一日、ニヤニヤニヤニヤ気持ち悪いんだよ」

ニヤニヤじゃなくニヤニヤニヤニヤか。
自分としてはニコニコニコニコしてるつもりなんだけど。
心情としては確かにニヤニヤニヤニヤだな。

「幸せに満ち溢れた笑顔って言えよ」
「不気味な笑みだろ」
「ひどいなー。な、俺のこの幸せな理由聞きたい? 聞きたい?」

俺の問いに無言で、たどり着いた改札をさっさと通って行く。
それを追いかけて肩を並べ、今度は自分でも認めるくらいニヤニヤした。

「実はさー彼氏できちゃった!」

わーい幸せー!
とばかり、言葉にすればニヤニヤは満面の笑顔になる。

「彼氏?」
「そう」

晄人は横目に俺を見て、

「物好きなやつもいるんだな」

なんてやっぱり失礼なことを言ってくれる。
いつものことだし心広いから気にしないけど。

「すごく男前でかっこよくてさ。ワイルドだし、あんまり多くを語らないってところもかっこいいし。身体も筋肉質でいいんだよなぁ」

ざわつくホームに並んで興味なさげな晄人へここぞと惚気る。
中等部からのクラスを思い返してみた。
多分晄人は夾と同じクラスはなったことがなかったはずだ。

「バイク好きだからコウと話し合いそうかな。アキとも合うだろなー……」

俺様ぽいところが。
うんうんと自分で頷く。

「同い年か?」
「藤代夾って知らない?」
「藤代? 珍しいな、お前が同じ学校のって」

なんだかんだ言ってさすが親友くん。
晄人の言う通りこれまで交際も遊ぶのも学校の外でだった。
同じ学校の人間に手を出したことはない。

「例外ばかりなのが恋。いままでのルール無視しても一緒にいたいと思ったんだ」

しみじみと呟く。
恋って素晴らしいよね、といまの俺はみんなに言ってまわりたい。
たいして待つこともなく電車がくるというアナウンスが流れ出した中で、

「マジでキモイ」

と晄人がうんざり口調で言った。


***


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