33 お弁当


「は? 本気か?」

久しぶりのゆっくりとしたお昼休み。
いつもの場所で同じお弁当広げてソファに並んで座る俺と夾は昨日からステディな関係だ。
前と変わらないようで変わってる。俺の視界はピンクがかかってるし。

「本気ってなに。マジだよ〜すごい?」

まじまじと夾が見つめてるのは弁当。
黒の二段式の弁当箱の一段には卵焼きにきんぴらごぼう、唐揚げの甘辛煮にブロッコリーとベーコンの炒め物とプチトマト。そして二段目にタケノコの炊き込みご飯。
別の容器にいれたフルーツはリンゴとオレンジだ。

「……本当にお前が作ったのか?」
「うん。今朝は特に気合い入れたよ。愛情満点!」

昨日は遅くまで夾の部屋にいて、夕食は手料理をご馳走になった。
ありあわせで簡単にだけどってチャーハンを作ってくれたんだけど、なかなか美味しかった。
一人暮らしだし普段から自炊してるそうだから料理はできる。
でも凝ったものは作らないらしいし、朝はパン、昼もパンでどう考えても栄養バランスが悪そうだ。
となれば! 愛妻弁当だろ! と、今日俺が弁当持ってくるって伝えた。
もちろん愛妻弁当だから俺の手作りだ。

「俺の父親って料理人なんだよね。母親も料理上手でね。調理師免許持ってるし。その影響か俺も料理は好きでお弁当は自作なわけ」

まあ毎日作ってるわけじゃない。
面倒くさいときは購買部や食堂も利用する。
ちなみに中等部までは給食。
双子には遠足だとか弁当が必要なときにはリクエストに答えて俺が作ってあげたりする。

「……うまい」

唐揚げを一口で食べた夾がぼそりと呟いた。
にやーってなる。がんばって作ったんだから気に入ってもらえたら嬉しい。

「だろー?」

頷きながら、俺も一口。
もちろん味見はするけど、冷えたときのことも考えて味付けしてるから今ちょうどいい味に満足。
夾は黙々と箸を動かしていっててそれにも満足。

「餌付けされそー?」

甘さ控えめの卵焼きを食べつつ笑顔を向けると夾は一瞬呆れたように俺を見てすぐに口角を上げた。

「どうせするつもりなんだろ」

その言葉が、してみろよ、と言ってるように聞こえた。
夾の箸使いは綺麗で、食べ方も一口が大きいけど汚くはない。
俺が作ったものがどんどん夾の口の中に消えていくのをじっと見つめる。

「なんか興奮してきた」
「勝手にしてろ」

つれないことを言ってくれる夾の口元へと俺の弁当から唐揚げをひとつ持っていく。

「あーん」

にやにやしてるだろう俺に対して夾は無表情にあっさりと俺から唐揚げを食べてくれた。

「俺にも、俺にもして!」
「もうねぇよ」

実際もうほとんど弁当は空だ。
残りもさっさと食べつくして、「ごちそうさま、うまかった」、と蓋が閉められた。
背もたれにもたれ、そのまま横に落ちるようにして夾はソファーの肘置きへと頭を乗せると長い脚は俺の膝の上。
まだ半分残ってる弁当を食いながら夾の脚と顔を見比べる。

「普通膝枕じゃないの。つーか、デザート残ってるんだけど」
「フルーツは食った」
「まだ俺が残ってる」
「予鈴鳴ったら起こせ」

夾は目を閉じて完全に昼寝タイムに入ってしまったっぽい。
まだ俺が残ってるんだけど、っていう大事なことだから二度言ったんだけど返事はなかった。

「智くんのが食べたい―――って言われたいなぁ」

ぼやいたら、「うるせぇ」って横腹を蹴られた。軽くだけど。
餌付けの道はまだまだ長そうだ。


***

prev next

[TOP][しおりを挟む]
[HOME