第6話。そして平凡な日常が戻って来たようなそうでもないような


会長のふつうちんこの写メ撮るの忘れてたな。
まーいっか。
でもまた絡まれたりしたら嫌だなーと思ったのは会長が出ていってすぐだった。
あのあとしばらくしてまりもことゆきさが帰ってきてうるさくて、すぐに会長のことは忘れた。
風呂入ったとき腹が青あざだらけで憂鬱になったけど、童貞のキスで赤くなっちゃうなんて会長もたかがしれてるなって思えば少しは気も紛れた。
また会長に殴られるかもしれないけど、でもそしたらそのときは今日のことを言えばいいだろう。
と――俺ってわりと鬼畜!なんて考えてたら。
その翌日。

「おいー! ともやー! って、なんで逃げるんだよ!! 俺たち親友だろ!!!」

ともやこと、柏木知哉。
わりと普通な会長の名前。
会長は大好きなゆきさを見て一瞬顔を輝かせたけど、ゆきさの一歩後にいる俺を見た途端顔を強張らせ廻れ右して猛ダッシュで逃げていってしまった。

「なんだよ、あいつ!!」

ゆきさはぷんぷん怒っている。
俺はそれを眺めながら、会長の態度に首をかしげつつもほっと胸をなでおろしていた。
もしかしたら昨日の一件で会長が俺にかかわらないことにしたのかな?
それなら幸いだ。
でもあそこまでビビることないのに。
まさかまじで童貞とか――は、さすがにないよな。

「ったく! すぐる、早く食堂行こうぜ!」

ゆきさはブツブツ言いながらも俺を一瞥してから歩き出す。
こいつと昼飯なんて食いたくないのに。面倒臭い。

「……ああ、うん」

それでも今日ばかりは平凡な生活を脅かすひとり生徒会長がいないことに気持ちが楽になって、いつもよりはゆきさの隣を歩く足取りも軽くなっていた。
でも、だ。

「ゆーきーさー!」

食堂に向かう途中で爽やかスポーツマンやら、会長をのぞく生徒会メンバーやらが合流してきて俺はまたひっそりと憂鬱さにため息をついたのだった。
あ―本当にまじで平凡な生活に戻りてぇ!
俺の内なる想いなんて誰にも届くことはなく。

まさか――会長とのどうでもいい一件が平凡とはほど遠い生活の幕開けになるなんて、いまはまだ知る由もない俺だった。


【会長編:了】

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