chocolate holic V


「ちーくん、ちーくん。今日何日?」

千裕お手製の美味しいカレーを食べ終えて、次はもちろんチョコだろう。
急かすつもりはないけれどどうせならバレンタイン当日にもらいたいし?
食後のコーヒー飲んでるいまならちょうどいいだろうと言ってみれば、千裕は一瞬何か考えるように視線を泳がせて質問を返してくる。

「チョコたくさんもらいました?」
「会社の子にはもらったよ。男全員一緒の義理チョコ」
「それだけ?」
「うん」

意外、って千裕の顔に書いてある。

「なにもっと貰ってきてほしかった? ちーくん甘いもの好きだっけ?」
「いや別にそう言うんじゃないですけど」

なにを考えてるのか。
素っ気ない口調だけど千裕はわりと顔に出やすい。

「隠してないよ。本当に会社の子以外には貰ってないから」

念を押すように言えば、また「別に……隠してるなんてことは」なんて言葉を濁してる。

「あ。もう一個貰った。手づくりチョコ」

千裕の態度が可愛いからついついからかいたくなるんだよな。
本人には言えないけど。
わざとらしく思いだしたふりをして言えば、手づくり、とボソリ呟いて眉を寄せている。

「安心して、義理だから」
「……そうなんですか? 手づくりってことは本命の可能性あるんじゃないですか?」
「心配?」
「は? なんで俺が」

なんで俺がってもうほんとーにちーくんは世に言うツンデレだよな。

「ちーくん俺の恋人じゃないの」
「……」

そしてなんでここで黙るかなー。
まぁ泳ぐ視線が照れ隠しってことはわかってるからよしとするけど。

「心配しなくても大丈夫だよ。手づくり義理チョコは実優ちゃんだから」
「……そうですか」

気付かない程度にほんの少しだけだけど千裕はほっとしたような顔を見せた。

「……なにニヤニヤしてるんですか」
「早くチョコ食べたいなーと思ってだよ」

千裕はため息をついて立ちあがるとキッチンのほうへと向かって小さな紙袋を持ってきた。

「はい。これバレンタインチョコです」
「……」

パッケージに入っているロゴはたまに買う洋菓子店のものだった。
中には長方形の箱。
取り出して開けてみると確かに美味しそうではあるトリュフやらのチョコが6個。

「なにこれ」
「なにって智紀さんがバレンタインチョコほしいって言ってたんじゃないですか」
「言ったけど」

ひとつチョコをとって口にいれる。
美味しい、けど、ただのチョコレートだ。

「なんですか。……まさか智紀さんなんか変なチョコが」
「違ーう! ―――ったく。千裕、俺が食べたいのは千裕が作ったチョコ」

ほら出して、と手を差し出せば千裕は驚いたように目を見開いた。


***

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