白蛇様A


真っ白な蛇。赤い舌が覗き、同色の目が哉巳を捉える。

「う、うわぁっ」

小さな蛇でも怖いと思ってしまうのにその何倍もある白蛇―――村の守り神である白蛇様だ。
明らかに身体の長さは哉巳の倍はあった。
12歳になったばかりの哉巳にとって村の祭事の重要性などいくら説かれようと実際その瞬間冷静でいられるはずも、全うできるはずもない。
哉巳は必死で逃げようとした。
だがすぐに動きは止まる。
出てくるときは確かに重たい音を引きずらせていたはずなのに、音もなく一気に距離を縮め哉巳の身体に巻きついた白蛇様。
哉巳の耳に空気の鳴るような白蛇様の呼吸音が響いてくる。

「うわぁ、や、やだっ」

哉巳の全身を拘束するように白蛇様が絡みついてきた。
呼吸音はさらに大きく聞こえてくる。白蛇様の頭部が哉巳の耳元へと近づいたのだ。

「ひっ」

耳孔に這うもの。白蛇様の細い舌が孔の縁をなぞるように動く。
細かい動きに肌が粟立った。

「は、離せ、離せよお……っ」

涙を浮かべながらもがくが白蛇様からは逃げられず御座に仰向けに倒れ込む。
あっというまに白装束は乱れ布越しとそして直接素肌に白蛇様の肌を鱗の感触を感じ恐怖は募った。
自分がどうなってしまうのか恐ろしくてたまらない。
確かに去年までの少年たちは帰ってきていたはずだ。
だが今年もそうだとは限らない。このまま白蛇様に絞殺されるんじゃないのか。
そうとしか考えられず涙をこぼしながら哉巳は離してとしゃくりあげながら言い続ける。

「……っ、誰か……助け……っ、ひ!?」

身体に巻きついて蠢く白蛇様。
それとは別に両脚になにか細いものが絡みついてくるのを感じ、視線を向ける。
視界にかろうじて映ったものは自分の脚に絡みつく数匹の白蛇だった。
普通の小さな蛇だ。それが脚に巻きついて上へと上がってくる。

「いや、やだ、とーちゃ、かーちゃ……っ、いやだ、き、もちわる……いっ」

暴れる哉巳に白装束の裾を割って入ってくる数十匹の小さな白蛇たちは哉巳の脚を這い上がっていく。
白蛇様が動き哉巳の片脚を持ち上げるように身体を絡みつかせた。
その隙を縫うようにして哉巳の上半身へと這う数匹の白蛇。

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