白蛇様@


新年を迎えたその日はあいにくの雨模様だった。
空は暗く重苦しい色の雨雲が立ちこめている。
雨はひどくはないが霧雨が降り続き視界はとても悪かった。
その上、山の中にいるともなれば一層あたりは暗いはずだ。
だがいま哉巳(カナミ)がいる場所は松明の火に照らされそこだけ切り取られたように明るい。
松明は哉巳の前にある洞窟を囲うようにの等間隔に立てられていた。
火の明るさは洞窟の深さには敵わず、洞窟内は空よりも深い闇に閉ざされている。
そしてその洞窟にはしめ縄が張られていた。
哉巳は震える身体を自ら抱き締め、用意されていた御座の上に座る。

ここで―――待たねばならないのだ。

この洞窟に住まう村の守り神である白蛇様が出てこられるのを。
毎年元旦に村が一年平和に過ごせるように、と12から15歳になる少年が白蛇様に遣わされることとなっていた。
哉巳は今日で12歳を迎え、今年の干支は巳年。
ちょうどよいとあっさりとその役目は哉巳に決まってしまった。
大晦日の夜は禊をさせられいまは寒い冬だというのに白装束のみ着せられている。
大人たちはいずに、哉巳だけが白蛇様と対面する。
その実、哉巳には白蛇様とお会いしてなにをすればよいのかは聞かされていなかった。
ただ―――お会いしてそのお声を聞けばいい。
それだけを村の長老に言われていた。
不安はあったが毎年自分と同じように白蛇様に会いにいくものはいて、かならず翌日には村に戻ってきていた。
だから、大丈夫だと逃げだしたくなる気持ちを必死で沈めた。
御座の上で拳を握りしめ寒さと不安に震えながらしばしの間待つ。
本当にいらっしゃるのか、哉巳たち子供の間では大蛇だという噂がだ真実は知らない。
大人たちはなにも教えてはくれないからだ。
やがて、なにかを引きずるような音が洞窟から聞こえてきた。
地を這う音。
なにか重たいものが引きずられてくるような音が近づいてくる。

「……ひっ」

洞窟の入り口に影が現れ哉巳は息を飲んだ。
心臓の音が激しく早くなり震えを押さえることができなかった。
思わず地面に手をつき、後退りしたところで赤い松明の火のに照らされて―――現れたのは白い大蛇だった。

 next

TOP][しおりを挟む]