お返しにご注意!B


「するわけないだろ」

即答。
というか何を言いだしてるんだろう智紀は。
俺が眉を寄せて見つめると、楽しそうに目を細めて笑う。

「なんで?」
「なんでって……。なんで友達としなくちゃならない……。それに男同士だし」
「男同士って、それ言う? 俺はバイだし、優斗だってそうだろ?」
「俺は」
「捺くんとシてたのに?」
「……」

そこを突かれると困る。
俺と智紀が揃って振られたのはもう半年以上前のことだ。
さすがにもう吹っ切れてはいるけど、男だけど手を出したのは彼だったからで、俺としてはバイというつもりはない。
……男同士でも抵抗ない時点でバイなのかもしれないけど。
だけど、親友とスるとかありえない。

「それはそれ。智紀とはシないよ。友人とするつもりなんてないし」
「友人だからこそ楽しそうだろ。俺と優斗ならきっと相性もバッチリだよ」

あっけらかんと言い放つ智紀に頭が痛くなってきた。
まるで俺の言うことなんてまともに聞いていない。

「……なんで俺?」

智紀なら言い寄ってくる女性も多そうだし、男がいいのならそういうことろに行けば男にもモテそうなのに。

「んー。優斗とシたいから。優斗見てるとムラムラするんだよねー」
「……」

正直―――少し引いた。
俺の胡乱な眼差しに気づいた智紀が声を立てて笑う。

「そんな変質者見るような目するなよ。別にいつも優斗を押し倒してあれやこれやしたいなーなんて思ってるわけじゃないから」

……あれやこれや、ってなんだろう。
訊き返したらきっとろくな返答はこないということはわかるから黙って口をつぐむ。

「もちろん俺にとっては大切な親友だよ? だけどさ、ほら、1月に俺が泊まったときのこと覚えてる?」
「……正月?」
「そうそう」

1月3日は智紀の誕生日で、なぜかその日俺のマンションで智紀、そして晄人実優と一緒に食事をすることになった。
晄人たちは帰ったけれど、智紀は次の日まで休みだからと延々俺を巻き込んで酒を飲み続けて結局泊まったのだ。

「……それが?」
「あのとき一緒のベッドで寝ただろ?」
「……意味深ないい方やめない?」

変わらず馬乗りになられたままの状態。
変わったものといえば智紀の笑みがどんどん黒くなっていっているような気がする、ということぐらいだ。

「あの時の優斗が可愛くてさー」
「……だから変な言い方するなって」

智紀につられて俺も酒をかなり飲んで、酔いつぶれたあの日。
それでもお客様だしと智紀をベッドに運んでやって、俺もそこで力尽きて寝てしまった。
ただそれだけのことだ。

「優斗は覚えてないかもしれないけど、あのときはほんと可愛かったよ?」
「……」
「俺にすり寄って抱きついてくるし」
「記憶にない」
「なんか寝言言ってるし」
「人間寝言くらい言うだろ」
「寝顔もあどけなくて可愛いし」
「……見るな」
「寝起きもぼうっとしてて可愛いし」
「……」
「いやーあの夜、俺は理性と相当戦ったよ」
「……変なことしてないよな?」

泊まらせるんじゃなかった、と後悔しながら問えば、智紀は首を傾げ口角を上げた。

「……智紀?」
「するわけないでしょ。寝こみ襲うほどガっついてないよ。思わずほっぺたにチューはしちゃったけどさー」
「……」
「もうあの日から、優斗見るとなんかムラムラするようになってさ。悩むこと一カ月とちょっとバレンタインに告白したわけだよ」
「……されてない」
「俺の本命チョコあげたでしょ」
「……」
「で、今日はホワイトデーなわけで」
「……たとえ本命チョコを渡したからって、それで全部上手くいくわけじゃないだろ? それにイコールでセックスになるわけじゃないし。だいたいムラムラって、別に俺のことが好きとかじゃないんだろ。欲求不満なだけじゃないのか」

智紀の話を聞いてたら頭が痛くなる一方で、このままじゃヤバイ気がしてとりあえず反論してみる。
だけど相手は智紀。

「好きに決まってるだろう? 優斗」

なんていう、無駄に色気を漂わせ、甘ったるく囁いてきてさらに頭痛が増した。

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