お返しにご注意!A
「あ〜、美味しかった」
しみじみ満足そうな智紀に、つい笑いがこぼれた。
「それはよかった」
ほとんど押しかけられたうえに強制的な俺の手作り夕食だけど、こうして一人じゃない夕食はなんだかんだ楽しい。
智紀とは同い年だし、仕事の話やそれ以外のことでも共通の話題が多いし、話は弾む。
「ほんとほんと、優斗はいいお嫁さんになれるよ」
女の子なら見惚れそうな爽やかな笑みを浮かべる智紀。
だけど言葉の内容は―――。
「あっそう」
たまに俺には理解不能でスルーしてしまう。
空になった皿をキッチンへ運ぶ。智紀も手伝ってくれ、食洗器にいれおえたあとはコーヒーを入れてリビングでゆっくり話すことにした。
時間はもうとっくに8時を大きく過ぎている。
ローテーブルにコーヒーカップを置いて、一人がけのソファに座ろうとしたら、
「こっちこっち」
と智紀が隣を叩く。
智紀が座ってるソファはゆったりめの三人掛けだし、並んで座っても窮屈ではない。
だけど喋るならいまの位置関係のほうがいいような気がする。
「いや、俺は」
「いいからこっち来て、ゆーとくん」
にこにこと俺に笑顔を向けてくるけど、拒否は受け付けないといった雰囲気があってしぶしぶ隣に座ることにした。
バーのカウンターで並んで座ることもあるし、晄人がいまいればきっとどっちかがこうして隣に座るだろうし、変なことではないんだけど何故か居心地が悪い。
コーヒーを飲んでため息ひとつ。
「……なに?」
「なにって、こっちの台詞。俺といるのになんでそんなにため息つくの」
確かにため息をつく俺が悪いのかもしれないけど―――、またため息。
「智紀といるとため息がでるんだからしょうがないよ。それになに、はこっちの台詞。この手はなんなんだよ」
何故か智紀の手が俺の肩に回されてる。
退けようと手に触れたら手を掴まれて―――視界がまわる。
「……なに」
「食後のデザート食べたいなーと思ってさ」
「……冷蔵庫にプリンならあるけど」
「俺は優斗がいいなぁ」
「……」
理解不能な発言に一瞬思考がシャットダウンしかけた。
俺に馬乗りになって、相変わらず毒のない笑みを浮かべているのが逆に怪しいというか嘘くさい。
「俺は食べ物じゃないし」
「美味しくいただけるよ、俺は」
「消化不良起こすよ」
「平気。優斗だもん、美味しいにきまってる」
「……智紀。冗談はいい加減に―――」
「ね、優斗。バレンタインのお返しに、優斗頂戴」
―――は?
やっぱり理解不能な智紀の言葉に、とっさに反応したのは身体で。
智紀を押しのけようと手を伸ばした。
けれどまたその手を掴まれて、ソファに縫い止められる。
そして笑顔のまま、目だけが妖しく光って―――……。
「俺とセックスしよう?」
俺の嫌な予感は的中した。
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