お返しにご注意!@


「やっほー♪」
「……」

午後7時。
俺の家のマンションに来訪者。
ドアを閉めたくなったけどそういうわけにもいかず何故か花束片手にした智紀を招き入れる。

「……まだ出来てないんだけど」
「いーよ。俺も手伝うし」
「……いや、大したものは作ってないから」
「忙しいんだからいいよー。俺は優斗の手料理ならなんでも満足だし」
「……」

ため息をつきたくなって―――遠慮なく深いため息をつきながらリビングへ向かう。
今日は3月14日ホワイトデーだ。
週半ばの平日。今日も明日も仕事の中、わざわざ我が家にやってきた智紀。
それはもちろん、

『14日ホワイトデー、お邪魔するね〜』
『は?』
『とりあえず手料理で良いよ』
『なにが?』
『バレンタインのお返し』
『……』

そんな電話が先週末にあったせいだ。

「これお土産ねー」
「……ありがとう」

何故薔薇の花束?
真っ赤な色鮮やかな花束を渡され困惑しながらちょうど一カ月前のことを思い出す。
突然夜にワインとチョコレートを持参した智紀。
あっさりと帰って言ったけど、その間際に、

『ホワイトデー楽しみにしてるから。―――優斗、倍返しが相場だよ』

と言っていたのはちゃんと記憶に残っている。
というよりも……勝手に来てチョコレート食べさせてワイン飲ませて、ホワイトデーよろしくとはどういうことなんだろう。
マイペースというかつかめないやつというか、なんというか。

「で、夕食なに?」
「え? ああ、ビーフシチュー」
「へぇ。すごいな」
「昨日の夜に作っておいたから。あとはサラダと……」
「簡単でいいよー」
「……もちろん」

俺、手洗ってくるねー、とまるで我が家のごとく洗面所へと向かう智紀の後ろ姿を眺め、またため息ひとつついてキッチン入った。
切りかけの食材を手早く切って、ビーフシチューを温めてとしていく。
味見をしながらふと―――嫌な予感を覚えた。

「食事終わったら、すぐに帰らせよう」

そうしよう、と心に決めてサラダを盛りつけていった。


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