セクハラ注意。


「先生…」


ひとりの少年が保健室にやってきた。

目を潤ませ、苦痛に顔を歪め室内へ入ってくる。


「どうした」


養護教諭の土岐は回転椅子を軋ませ、少年に視線を向ける。

その声音は興味なさ気なうろんなもの。

だが少年は土岐と目があったことで苦痛に歪んでた顔を赤く染める。


「あ…あの…カッターで指を切っちゃって」


わりと小柄で可愛らしい顔立ちをした少年はおずおずと土岐のもとへ歩みよった。


「見せてみろ」


変わらずけだるげに言う土岐の前に立ち、少年は手を差し出した。

左手の人差し指に切り傷があり、血が盛り上がっていた。


「血は出てるが、傷は浅い。すぐに止まるだろう」


言いながら土岐の手が少年の手を掴んだ。


「この程度の傷、舐めておけば治る」


薄く口元を歪め、少年を見つめる土岐。

少年もまた土岐を見つめている。


そして土岐はゆっくりと少年の指に顔を近づけ舌を――――……。





「はい、消毒しますよ」

「いったあ!」

「いってぇ!」


少年と土岐の声が重なる。

前者はいきなり消毒液をかけられ染みたことで。

後者は少年の見えない位置で素早く保健委員の日坂友吾が土岐の首に手刀をくらわせたからだ。


顔を歪めている二人を無視し、友吾は手早く少年の手にカットバンを貼った。


「治療終わりました。お帰り下さい」


にっこり友吾に言われ、少年は慌てたように立ち上がり一礼するとドアへと向かう。


その背に友吾の声がかかる。


「傷を舐めたりするとばい菌が(ヘンタイ土岐の)入ったりしますから、気をつけてくださいね」

「は、はいっ。失礼しました!」


そして少年は退室して行った。



「ゆ…ゆーくん…」

「土岐先生」

「…はい」

「ちゃんと仕事、してくださいね?」

「……」

「……」

「……はい(あともう少しで美少年ゆきくんの指舐められたのにい)」

「ちゃんと仕事、してください、ね?」

「はいっ!」


以降会話はなく室内には土岐がBL小説のページをめくる音だけが響いていた。



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