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『何事…?』

「あ、師匠…」

昨日のお肉の残りで作ったのり巻きを持って放課後、テニス部の部室に行ったらぐっちゃぐちゃになった部室で呆然と立ち尽くすレギュラー数名と正座をしながら片付けをしている真田くんがいた。

柳くんはいつもと変わらずノートに何かを書き込んでますが。

赤也くん、なんでそんなに泣きそうなの?
ブン太も目がうるうるしている。

「どうした?」

『部活のあとお腹減るかと思って差し入れに来たんだけど…なにこれ』

ジャッカルが出て来たので事情を説明。
目の前のカオスの説明を求めた。

「…………えー」

「弦一郎が奏を怒らせたのだ。それで奏が弦一郎にマネージャーの大変さをわからせるためにこうした」


口ごもるジャッカルに変わって説明してくれたのは柳くんだった。

てか、奏ちゃんは結構やる子なんだね。
またそこもいいと私は思うよ。


「今日は、弦一郎のおかげで部活が無くなった」

「仁王くんはもう帰ってしまいました」

『じゃあ、これいらないか。そんなにお腹減ってないだろうから』

「いや、俺は食えるぜ」

差し出したタッパーを片付けようとすると、ジャッカルがそれを奪う。

『あ』

「昼飯食べてから大分たつし、腹へったし。差し入れサンキュー」

『あ、うん』

ニヤッと笑い、私から届かないところにタッパーを持ち上げた。

届かないので、諦めた。

『昨日余ったお肉で作ったの。一応お兄ちゃんに毒味はさせたけど……お兄ちゃんはいつも食べてるから耐性あるだろうし』

「ああ…、それに葉瑠(はる)ならお前の作ったのなら不味かろうが腐ってようが泣いて喜びそうだしな」

『……あはは』

「師匠、葉瑠って誰だよぃ?」

『あー、私のお兄ちゃん』

師匠の兄ちゃんならなんか無敵そうだな!って盛り上がるブン太と赤也くん。

ちょっと気になるのはさっきとは違うノートに何かを書き込み出した柳くん。いったい何書いてるんだろう……


「それより、俺らも食っていいか!?」

『うん、よかったらどうぞ』

まるで餌を待ちわびた子犬のような二人がとても可愛かったです。

「いただきまーす!」

「うんめぇ!」

『よかった』

君らの美味しそうな顔は最早天使だな。
私はいい弟子をもったよ!!


「俺もいただこうか」
『……!』

「では、私も」

「ほらよ」

柳くんがいつの間にかジャッカルの近くにいて私の作ったのり巻きを手にしていた。

ついでに柳生くんものり巻きを口に運ぶ。


なんだこの緊張は。
あの、うん。お姑さんにはじめて作った料理の批評を待つ嫁の気分。

「……ふむ」

柳くんはまだ食べずにニヤリと笑って真田くんの目の前に座った。

「弦一郎も食べるか?」

「…………」

みんなが盛り上がる中、黙々と片づけをしていた真田くん。

そして目の前でパクリと食べた。


「!?」 『あ…!』


「なかなか美味いぞ」

クスリと笑って真田くんの口に私ののり巻きを押し込んだ。

「なひをふるのだれんひ!」

「せっかくの差し入れなんだ。お前も食べておけ…どうだ?」

「む…………うまい」


口に無理矢理突っ込まれた真田くんは仕方なさそうに食べていたけど最後にうまいと呟いた。

それはそれで嬉しいんだけども、私は柳くんが無理矢理突っ込んだ時の若干トーンが落ちた声に死にそうなんですが。

いいな、いいな。私もあんな感じに罵られたい。罵倒されたい。

あ、ヤバイ。出そうだぜ


『ちょっ、ごめんなさい!』

急いで部室から飛び出して水道があるとこを目指して走った。

*****

「え、どうしたんすか!?」

「なんかあったのか」

「……またか」

部室を飛び出した理由はだいたい想像がつく。

おそらくまた鼻血だろう。

「おい、誰かティッシュ持ってねぇ?」

「あ、もしかしてまた鼻血ですか?」

「たぶん、俺様子みてくるわ」

どうぞ、と柳生がティッシュを貸してくれた。
さすが紳士。


それを持って水道に向かうと案の定なまえそこにいた。


*****

「止まったか?」

『あ、ジャッカル。今日は私頑張ったよ!ほらみんなの前で吹かなかった』


水道で血を洗い流しているとティッシュを持ったジャッカルがやってきた。

「今日のスイッチは?」

『ズバリ低音ボイス!』

「……………………」

うわぁ、なんか遠い目された。
酷い、ジャッカルのくせに!


『ジャッカル、今幸せな気分だから帰りゲーセン行こう!』

「俺、今月ピンチ…」

『三回ならおごってやるよ』

「うわぁ、上から目線」

『赤也くんとブン太も誘わなきゃね』

ため息をつきながら水に濡れた私の顔をティッシュでふく。

『お母さんみたい』

そう言うと嫌そうに笑った。

それから部室に帰ろうと思ったら私たちの鞄を持った柳くんとブン太、柳生くんがやってきた。

『あれ、どうしたの?』

「今は部室に帰らない方がいいだろう」

「真田がのびてるからよぃ。今は部室行かない方がいいぜ」

「は?」

「まあまあ、今日は部活もありませんし私たちも帰りましょう」

柳くんから鞄を受け取るとみんな口々にそう言う。

『でも真田くん、手伝わなくていいのかな?』

「放っておけ。あれは弦一郎の自業自得だしな。それに赤也が残っているから大丈夫だろう」

「それより、師匠。ゲーセンよってこうぜ」

『あ、うん』

あ、なんかまずった気がするな!

「みょうじはゲームをするのか?」


やっぱりぃいい
なんで柳くんは食いついちゃうんだ!?


「柳、知らねぇの!?師匠のボタン裁きは神だぜぃ!俺と赤也がフルボッコだし」

『そ、そんな。適当にボタン押してただけだよ』

「なんで謙遜するんだよぃ!?マジすごいのにさ」

『……………まーるーいーくーーーん?』


お望みとあらばフルボッコにしてやんよ。

「あ…」

「気づくのおせぇよ、馬鹿」

私が指を鳴らすのに気がついたのでしょう。目をキョロキョロさせるブン太。

今更、もう遅い。

「お前たちが師匠と呼ぶ所以はそれか…ほぉ」

なんか書いてます。柳くんがまたノートになんか書いてます。


「お前のデータはなかなかおもしろい」

『え?』

「いや、なんでもない。さぁ、帰ろう」

さっき柳くんが何かを呟いた気がしたけど、気のせいかしら。


途中で柳くんと柳生くんと別れて私たちはゲームセンターへ。

格ゲーでブン太を含め、私に挑戦してきた奴らすべてフルボッコは言うまでもない。






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