どうして俺達がこんなに不幸な目に合わなければならないのだろう。俺の目の前でひざまずいているユキヒロは疲弊しきった表情で静かに涙を零している。ユキヒロを見下ろしながら、俺は震えが止まらなかった。
こんな時に限って幼い頃のユキヒロがフラッシュバックする。金魚の糞みたいに俺に引っ付いて回っていたユキヒロ。人見知りで俺の後ろに隠れてばっかりだったっけ。

―――だめだ、勃たない。無理だ。

「っ、できません…。勃たないです」

俺達の背後で腕を組み、早くしろと言わんばかりにふんぞり返っている浦川部長は「情けねぇなあ。」と一言呟くと、ユキヒロに命令する。

「戸夏、タツキのしゃぶって勃たせろ」

真っ青な顔をさらに青くさせたユキヒロは何も答えず、ただ砂だらけのコンクリートの床を見つめていた。

「…お前がタツキのちんぽしゃぶらねーんなら、俺のちんぽをタツキくんにしゃぶってもらおうかなー」

悪意のある憎々しい言葉にユキヒロは顔をくしゃくしゃにさせ、嗚咽をあげて鳴き始める。ユキヒロはぶるぶる震えている手で弱々しく俺のスラックスを掴むと、俯いたまま消えそうな程小さな声でただ一言、「ごめん」と言った。
カチャ、とベルトのバックルが弄られる音と、衣擦れの音。自分の性器が外気に晒される感覚と、自分のものではない手が性器に直に触れる感覚。
未だ現実を受け止められない俺は、それがより神経を過敏にするとは知らずに固く目を瞑った。

「ぅ、あ…っ」

初めて味わう人間の口内はすごかった。熱くぬるつき、硬い上顎と柔らかい喉が手とは全く別の快楽を生み出す。
陸上一筋で彼女も作らず、部活の疲れからくる睡眠欲が性欲を凌駕していたため自慰すらなあなあにしていた俺は、先程まで勃たない無理だと言っていた自分が信じられないくらい直ぐに快楽に屈服し、勃起した。
恐る恐る目を開くと、そこには眉を寄せ苦しそうに俺のペニスを銜えるユキヒロの姿があり、その卑猥さと背徳感に身体がかっと熱くなる。

「ん、ぐっ、ぅっ、ふぐ、んん」

しゃくりあげながら銜えているせいかユキヒロが苦痛混じりの呻きをあげる。喉の奥が痙攣しペニスの先端を粘膜がにゅるにゅると刺激する凄まじい快感に全身が戦慄いた。欲望が恐怖と怒りを洗い流し、罪悪感を快楽に変えてしまいそうになる。

「は、ぁ、何…これ、っく、」

はあはあ息を荒げる俺とは対照的にユキヒロは虚ろな目で俺の股間に顔を埋めていた。きゅ、と俺の乱れたスラックスの太股部分を握りしめる細い指のいじらしさに胸がざわつく一方で、その暗い表情は俺の中の罪悪感を蘇らせる。

この狂った宴をにやついた顔で見つめていた先輩達はやがてユキヒロを俺から引き剥がすと、乱雑に放置されている砂埃と黴の臭いの染み着いた不衛生な体育マットに抵抗するユキヒロを連れて行き、無理矢理俯せに押さえつけ大きく脚を開かせた。
先程のバスケ部の男からの暴行で赤く腫れたアナルから腸内に残った精液が零れ落ちマットに染みを作る様は、排泄器官とは思えないほど淫猥だった。ユキヒロは幼馴染みにあられもない自分の姿を晒す苦痛と絶望に人目もはばからずわんわん泣き始め、それを見た先輩は忌々しそうに舌打ちする。

「ふ、うぅう、いっ…やだ、ひぐっ、うぁぁ、やだ、こんなっ、ふぐ、う゛ぅううう」

「あーもー煩ぇな!萎えるから泣くなっつーの。ほらタツキ、早く挿れろよ」

俺は直立不動のまま自問自答していた。喉がからからに渇いている。興奮か恐怖か、頭がくらくらする。
身体の内側で熱がくすぶり続けているとはいえ、いざこうして俺を受け入れるために強制的に押さえつけられ泣いているユキヒロを見ると、セックスなんて無理だと思った。
そのくせ、俺のペニスは痛い程張り詰めていて、眼前の肢体になまめかしい性を感じながらも、よく見知ったユキヒロの顔に正気に戻される、それを繰り返していた。心と身体がめちゃくちゃに動き、俺は酷い目眩に襲われる。

わかっている、こんなの狂っている。すでに先輩達から性的暴行を受けているというのに、俺にまで犯されたらユキヒロはどうなってしまうんだろう。死んでしまうかもしれない。大人しいユキヒロがあんなに感情を剥き出しにして泣いているなんて。俺はどれだけユキヒロを傷つけ悲しませたらいいんだろう。ごめん、ごめんなユキヒロ。
ああ、でももうユキヒロを裏切った事に変わりはないんだし、ここまできたら一緒じゃないか?だってユキヒロみたいになるのは嫌だ。犯されて、泣きながらケツからザーメン垂らすなんて絶対嫌だ。
俺は、人の中心にいたくてあんなに慕ってくれていたユキヒロを捨てたじゃないか。今更、そう今更だ。あああああああああ、あの時廊下で会ったユキヒロは嬉しそうな顔してあの柔らかくて優しい笑顔を俺に向けてくれたのに。俺は、俺は。


「ああもう、うっぜーな!ごちゃごちゃ考えてないでさっさと突っ込めよ!」

浦川部長は焦点の合わない眼をして黙り込んだまま動かなくなった俺の髪の毛を鷲掴みにて、ユキヒロの脚の間へと突き飛ばした。
ユキヒロは俯せの体勢のまま必死に首を後ろに向け、葛藤に動けなくなっている俺に懇願する。

「ねぇ、たっちゃん、お願い。もうやめよう?お願い、こんな事やめて…!」

涙と鼻水とで汚れた顔で懸命にいつもの笑顔を作ろうと無理に口角を上げ、諭すような口調で俺に話しかけるユキヒロを浦川部長が鼻で笑った。

「はっ、何、おまえたっちゃんとか呼ばれてんの?だっさ」

それに呼応するようにぎゃはは、と下品な笑い声が倉庫に響く。俺はカッと顔に熱が集まるのを感じた。中学生の頃、俺を笑ったクラスメイトの顔がフラッシュバックする。

何で今更その名前で俺を呼ぶんだ…!

記憶の奥底に封印していた幼い頃の自分のあだ名を呼ばれた恥ずかしさに、筋違いだとわかりつつも俺はユキヒロに苛立った。
恐怖に罪悪感に後悔。怒りに興奮に恥ずかしさ、苛立ち―――。様々な感情がない交ぜになって許容範囲を越えてしまった。もうどうでもいい。どうにでもなれ。うざいうざいうざい笑うなよもう考えるものうざったい。笑うな笑うな笑うな!!!

「ああああああもう!いいよ!わかったよ!やってやるよ!やればいいんだろ!!!」

自棄になった俺は、咽び泣き壊れたように「やめて」と言い続けるユキヒロのアナルに勃ち上がった己のペニスを突っ込む。既に男のものを銜え込んだユキヒロのアナルは絡み付くように熟れていて、俺は思わず呻く。ユキヒロは挿入される衝撃に仰け反ると、目を剥いて大きく口を開けた。

「ひっーーーあ゛ぁああ゛ああ!!やだ!い゛やだ!い゛やだあああああああ!!

倉庫中にユキヒロの絶叫が響き渡る。
縛られているわけではないのだから暴れて走って逃げてしまえばいいのに。そうしないのは俺を守ろうとしているのだろうか。
浦川部長はうんざりした顔をすると、発狂したように喚くユキヒロの髪を鷲掴みマットに押しつけた。

「ぐっ、ん゛ん!ふぐぅうッ」

黴臭いマットに顔を埋めもがくユキヒロを余所に、俺は初めて体験するセックスの快楽に夢中になっていた。どうにか顔を上げようとユキヒロが力を入れる度にぬるつく内壁が収縮し、俺のペニスを扱く。
男のケツがこんなに良いものだったなんて。結局俺も先輩達と同じ思春期の猿なのだろうか、ユキヒロに対する罪悪感が快感に塗り潰されていく。
バチュンバチュンと音がする程激しく腰を打ち付ける俺の下で、ユキヒロは次第に動かなくなっていった。

「うるっせーんだよ。窒息したくなかったら大人しくしてろ」

浦川部長が髪から手を放す頃、ユキヒロは虚ろな目で俺に揺さぶられるだけの人形と化していた。

「ぅ、ん゛ぐ、な…で、なんでっ、ぅあ゛、」

ペニスを奥に突き入れられる度に掠れた呻き声をあげるユキヒロは、ひたすら「何で」と呟く。
何でこんな目に。何で幼馴染みに犯されなければならない。何でこんな事ができるのか。何で自分なのか―――「何で」の後に続く言葉は何なのだろう。

「ユキヒロ、ユキヒロ…ごめん、ぅ゛、ほんとっ、ごめん…!」

息を荒くさせて自分の尻に突っ込む男の謝罪など聞きたくもないのだろう、ユキヒロは両手で耳を塞ぎ、目を固く瞑ったままただ行為が終わるのを待っていた。
口では謝罪しながらも腰を振るのをやめられず無遠慮にユキヒロの体内を抉ると、俺の下の白い背中が艶めかしく揺らめく。それは単に苦しさや痛みに身を捩っただけだったのかもしれない。しかし薄暗い室内に浮かび上がるシミ一つない真っ白な肌が、その時の俺の目にはどうしようもなく淫らに映ったのだ。

「こいつのケツ、すげぇだろ?ヤればヤる程具合よくなってさ、俺らホモじゃねーのに止めらんねぇの。お前もさ、何だかんだ言って俺達と変わらないんだよ。どんな御託並べたってちんぽ突っ込んで気持ち良くなればどうでもよくなる」

俺は何も言わなかった。否、言えなかった。
浦川部長の言う通り、何度も行為を重ねたユキヒロの腸内はただの排泄器官とは言い難い程に熟れていた。まるで男の精を搾り取るために存在しているかのように、ペニスを押し込む度に内壁がきゅっと収縮し、引き抜けば名残惜しそうに絡みついてくる。すでに中に出されていた先輩達の精液が泡となってアナルの縁からぶちゅぶちゅと溢れる様は、今まで見たどんなアダルトビデオよりも官能的だった。
そんないやらしい身体とは対照的にユキヒロ自身は甘い声一つあげる事なく、苦痛に呻きながらはらはらと涙を零す。

「ぅ゛、ぐ、痛…っも、やだ、ひっぃ゛、おねが、やめ゛て…っ!」

「はぁ、ごめんな、ごめんユキヒロ…っでもお前、すごいっ」

「嫌だ、あ、ぎッ、やだ、こんな、ん゛、くっ」

俺の声はユキヒロに届いているのだろうか。ユキヒロは一人自分の世界に籠もっているかのように嫌だとか、嘘だとか、ぶつぶつ呟いては両手で頭を抱え震えた。
その姿を見て、ユキヒロが消えてなくなってしまうのではないか、死んでしまうのではないかという漠然とした不安に襲われる。ユキヒロに覆い被さるようにしてその白く華奢な身体を抱き締めると、ユキヒロは幼子のように声を上げてわんわん泣いた。

「も、やめて、や゛めて、ひどい、こんなの嫌だぁ…ッ!!」

「ぅう゛、ごめん、ごめん、ほんと、ごめんな、は…く、ぅ、」

泣きじゃくる顔が子供の頃のユキヒロと重なって、鼻の奥がツンと痛くなる。
ユキヒロ、俺達はどこで道を間違ったんだろうな。
じんわりと視界がぼやけていく。堪えようとぐっと唇を噛みしめるもユキヒロの背中に滴が落ち、同時に俺の身体を甘く痺れるような波が襲った。
謝りながらも快楽に勝てず、結局イってしまった罪悪感と情けなさ、後悔が射精後の虚脱感と共に俺を飲み込む。萎えたペニスを引き抜いた瞬間ユキヒロは砂まみれの床に倒れ、そのアナルからたった今出した俺の精液が零れ床に溜まりを作るのを見て先輩達が笑った。

「良かったなーユキヒロちゃん。大好きなタツキのザーメンいっぱい貰えて。格別だっただろ?」
「タツキ、お前も酷い奴だな。あれだけ暴れて嫌がったくせにしっかり出すもん出してんじゃねーか」
「タツキの童貞奪えて嬉しいだろ戸夏!」

床に蹲るユキヒロを取り囲み口々に詰る先輩達。
ユキヒロは光のない瞳で浦川部長を見上げると、蚊の鳴くような小さな声で「殺してやる」と言った。その瞬間ヘラヘラしていた浦川部長の顔が能面のように無表情になり、ぞっとする程冷たい声を出す。

「いいよ。でもお前が俺を殺す前に、お前もタツキも壊しちゃうから」

―――――いやだ、嫌だ嫌だ嫌だ怖い!!

気付けば俺は体育倉庫を飛び出していた。
後ろでユキヒロの悲鳴が聞こえたけれど、俺は恐ろしくて振り向けなかった。振り向けば二度と戻れない気がして、涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら全速力で走った。
必死で脚を動かしながら、俺は自分が怖くて情けなくて堪らなくなる。ユキヒロに対する自責の念に駆られ、悔恨と恐怖で頭の中がいっぱいなはずなのに、どこかに「自分じゃなくて良かった」と安堵する自分が存在するのだ。

「ぅぐ、ぇっ、ぐぅ、ゆきひろぉ……!」

許してくれ、なんて虫がよすぎるけれど、

「ごめん、ごめんなっ、ぅう゛、ごめんん…!」

謝らずにはいられなかった。
ここにユキヒロはいないのに。


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