「あ、あ゛あ゛っああ゛あああ゛ーーっ!嫌だ、嫌だ!何で!嘘だぁ!」

恐慌をきたし暴れるユキヒロを上に乗っていた男が乱暴に押さえつける。ユキヒロは必死に足掻こうと手足をばたつかせていたけれど、引退したとはいえスポーツマンである男の力に華奢な身体では適うはずもない。やがて自分の力ではどうにもできない事を悟ったユキヒロは、せめてもの抵抗のつもりか顔を隠して啜り泣き懇願した。

「お願い、見ないで、うぁ、あ、おねが、やめ、ふぐ、ううう」

「うるせーな、お前は黙って突っ込まれてろよ」

口を塞がれたユキヒロは男に突き上げられる度に仰け反り、ぶるぶると震えている。薄暗い室内に浮かび上がるユキヒロの白い太股からぬるついた液体が滴り落ちた。ぼろぼろと大粒の涙を零し頭を振るユキヒロの脚の間を太く猛った性器が出入りする光景は、何かに補食されているようにも見えるグロテスクさを併せ持っていた。
ユキヒロの口を塞いでいる手の隙間から、律動に合わせて強制的に声帯から押し出されたような呻きが漏れる。

「う゛っう゛っ、ぐ、ぅっ、ん゛ぅ、」

あまりに非現実的な光景に自分の目が信じられず瞬きも忘れ呆然と突っ立っている俺と、体中の水分をすべて涙に変えているかのように泣きじゃくるユキヒロの濡れた瞳がかち合う。
その瞬間、頭の中が怒りで満たされユキヒロを犯しているバスケ部の男に殴りかかろうとして、浦川部長に押さえつけられた。

「なんで、何でこんなこと…!今すぐやめさせろ!!離せ!!」

「何でってお前が調子乗ってるって皆が言うからさぁ。お前のせい」

浦川部長の言葉に俺は一瞬動きを止める。
俺のせい?俺が何をしたと?ユキヒロがこんな目に遭うような事を俺がしたっていうのか?
睨みつける俺を浦川部長は愉快そうに鼻で笑う。この異様な空気の中で先輩はいつもと変わらぬ仕草で制服の胸ポケットから煙草を取り出すと、まるで何でもないかのように紫煙を吐き出し言った。

「いいじゃねーか別に。お前、こいつと同じ高校にいるくせに一回も話しかけてねぇし、会おうともしなかったんだろ。俺達にもこいつと知り合いだって一言も言わなかったし、そんな素振りも見せなかった。一緒に特進の奴らうぜぇって言ってたしな。木谷に聞いたぞ、お前こいつと会ったとき走って逃げたんだってな。幼馴染みのくせに。もう大して仲良くもねぇんなら放っておけよ。いつもの特進いじめと変わらねぇんだからよ。たまたまこいつが俺達の目に留まって、たまたま金巻き上げるよりちんぽ突っ込んだ方が楽しそうだったってだけだよ」

嘘だ。俺がユキヒロと幼馴染みだってことを木谷から聞いてわざとやっているに違いない。ユキヒロと先輩達は面識すらなかったはずだ。これは俺への戒めなんだろう?

自分のくだらない自己顕示欲のために俺がユキヒロを見捨てたからこうなったのか?
先輩達と関わってしまったからこうなったのか?陸上に精を出したからこうなったのか?
ユキヒロから逃げたのを木谷に見られたからこうなったのか?
今までしてきたすべての選択がこの現実に繋がっているとしたら、あんまりだ。

「ぅ、ぅう゛…痛、い、やだ、」

ユキヒロの啜り泣く声が聞こえる。怒りに染まった俺の頭の中で、握った拳に爪が食い込む痛みだけが落ち着けと言っていた。
ああ、そこらに金属バットでも落ちていたならここにいる奴ら全員殴り殺してやれるのに、ここはただの古ぼけた体育倉庫だ。
俯き突っ立っているだけの俺を取り囲んだ先輩達。浦川部長は残忍な炎を瞳に宿らせ、笑いを堪えきれないといった口調で俺に言う。

「でさ、タツキ。俺達お前に何してやるって言ったっけ」

「何…って、」

先輩達が俺に何をさせようとしているのか、頭に浮かんだ一つの答えを素早く頭の奥深くに追いやる。嫌だ。知りたくない。わかりたくない。嫌だ、嫌だ、いやだ。
見るからに動揺している俺を見た浦川部長が、下品な笑みを零しながら口を開くのがスローモーションのように見える。

嫌だ、言わないでくれ。やめてくれ、知りたくない!!!


「お前、こいつで童貞捨てろよ」


無情にも放たれた浦川部長の言葉に、周りにいる先輩達がどっと笑う。いつの間にバスケ部の野郎との行為が終わったのか、床に崩れ落ち意識を失っているかのようにぐったりとしていたユキヒロは、臀部から伝う精液と土が混ざり肌にまとわりつくのも厭わずに浦川部長に縋った。

「お願いします、それだけは、それだけはやめてください何でもするから、やめてくださいお願いします…!」

ぼろぼろと大粒の涙を零し哀願するユキヒロを、獲物を見つめる肉食動物のような獰猛な目で見つめる浦川部長。

「お願い、もう抵抗しないし何でも言うこと聞くから、そ、それだけはやめてください…!」

「ああもう、うるせーな!お前は黙ってちんぽでも銜えてりゃいいんだよ。おい、誰かこいつの口塞げ」

「やめて、嫌だ!やめっ、う゛、ぐぅう、うぶ…!」

抵抗虚しく髪の毛を鷲掴みにされ、先程とは別の男のペニスを無理矢理銜えさせられるユキヒロ。その目は苦しさに見開かれ、押し当てられる異物感と嘔吐反射から喉が忙しなく上下している。

「やめろ!!やめてくれ!!」

俺は押さえつけられ身動きがとれない状態で叫び続けた。

「だから、こいつとヤれって言ってるだろ。そしたらやめてやるよ」

「そんなのできるわけないだろ!!」

ユキヒロのえずく声が聞こえる。それはフェラチオなんて生易しいものではなく、ただの暴力だった。真っ赤な顔でふぐふぐ呻いているユキヒロが、このままでは死んでしまう気がして俺は焦っていた。
拘束する手を振り解こうとやたらめったらに身体を動かす俺を冷めた目で見つめていた浦川部長が放った言葉に、俺は動けなくなる。

「じゃあ、お前が代われよ。戸夏の代わりに俺達の精液便所になって毎日ケツ差し出せよ。俺は別にお前に突っ込んだっていいんだぜ?戸夏とヤれないんなら、お前にちんぽ突っ込めばいいんだし。友達なら代わってやれるだろ?だって友達が苦しんでたら代わってやるのが友情ってやつだもんなぁ?戸夏くんとは幼馴染みだもんな?ほら、戸夏に突っ込むか代わりに突っ込まれるか選べよ」

…滅茶苦茶だ。ユキヒロの代わりにあんな目に遭えって?無理に決まってるだろ。

「おい、お前の優しい幼馴染みがお前の代わりに俺達にケツ貸してくれるってよ!」

笑いながら浦川部長はユキヒロに向かって大声を出す。口にペニスを突っ込まれたまま、必死に首を横に振るユキヒロに涙が出そうになる。
俺を拘束していた先輩の一人が、僅かに同情的な声音で俺を諭すように耳元で囁いた。

「逆らわない方がいいぜ。あいつ、一度決めたら絶対譲らねぇから。見ればわかるだろ、ああなりたいか?目ぇ瞑ってオナってるつもりでやっちゃえよ。お前がどっちか決めるまで戸夏もあのままだぞ」

心臓の音が煩い。嫌な汗で全身がぐっしょりと濡れている。これは現実か?思考がもつれてどうにもならなくなった糸のように絡まっている。
本当にどうにもならないのか?ユキヒロを犯すか俺が犯されるか、その二択しかないのか?
ユキヒロ、ユキヒロ、ユキヒロ。今までだってユキヒロを裏切ってきたじゃないか。ああ、でもそれとこれとは次元が違いすぎる。じゃあ犯されるか?目の前のユキヒロみたいに死にそうな顔して男のちんこしゃぶるのか?嫌だ、それだけは嫌だ。俺のせいでユキヒロはあんなに窶れてしまったのに、俺はユキヒロに何もできない。ごめんユキヒロ。ごめん。あああああああああああああああああどうしたらどうしたら、どうしたら!

「お前タツキに何吹き込もうとしてんだよ。余計な事してないでタツキの服脱がせ。脱がせたら写真撮れよ、戸夏の時みたいにな」

「はいはい。何も言ってないって。ごめんねタツキー」

浦川部長の言葉に室内にいる男達が俺に襲いかかってくる。突っ立ったまま俯いていた俺は、突然の事に抵抗虚しく押し倒され、制服を毟られていく。シャツは引きちぎられ、ボタンが飛んだ。ベルトのバックルを外そうとしている陸上部のよく見知った男と目が合った瞬間、俺の心は悲鳴をあげた。犯される、そう悟ると先程までの怒りは一瞬で恐怖に変わり、竦み上がって動けない。

「無理、無理無理無理無理無理むりむりむりぃ!!!!!!」

俺は服を乱暴に破かれ男に取り囲まれる恐怖に、大して考えもせず反射的に叫んでしまう。
犯されているユキヒロが可哀相だと涙が出そうになったのは、きっと“自分は犯される”なんて思ってもみなかったからじゃないのか?俺じゃないからと心のどこかで思っていなかったか?

「はは、無理じゃなくてやるんだよ。陸上なんて出来なくなるくらい犯し潰してやってもいいけど、どうするタツキ?」

怖い、怖い、それだけは嫌だ。俺から陸上を取り上げないでくれ!

「わ、わかった!やる!やるからやめてください!」

「…どっちを?」

パニックになりながらそう叫ぶ俺を浦川部長は実に楽しそうに見ている。悔しいとかぶん殴りたいとか、そういった事すら怖くて考えられない俺は、また自分可愛さにユキヒロを見捨ててしまうのだ。

「ユキヒロとヤればいいんだろ!!!」


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