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すきですと叫んで逃げる

 視つけた、と思った瞬間には駆け出さずにはいられなかった。
 呼吸が乱れる。折角、綺麗に整えてもらった髪型も、ちょっと崩れてしまったかもしれない。でも、視つけてしまったら、のんびり歩いていく、なんて出来なくて。

「こ、こかげ、くん!」

 未だ慣れない“くん”付け。ちょっと胸の辺りがどきどきする。
 視つけた背中に飛びついて、ぎゅうと抱きしめた。──ああ、こかげくんのにおいだ。

「か、霞花、ちゃん?」
「えっと、その、こ、こんばんは!」

 ついそのまま抱きついてしまった。あんまりよくなかった、かもしれない。でも走ってて急に止まれなかったのも事実だし、抱きつきたくなってしまったのも、あった。──お母様が言ってました、好きな人には積極的にアタックするんだよ! と。

 ……す、すきなひと……。

「……すかちゃん、……霞花ちゃん?」
「ひゃ、ふぇ、あっ、」

 ばっと顔を上げる。振り向きがちに此方を見る焦げ茶の瞳。直接見ても、極彩とならない色。不可思議な色。不可思議な、人。

「今日は、どうしよっか。昨日行った公園行ってみる?」
「あっ、はいっ! い、いきたいです!」

 頷く動作は無理だったので、力強く返事をした。
 じゃ、行こうか。と笑う顔が視える。おずおずと離れた。

「あっ、」

 先に、足を踏み出す。女は度胸よ! とお母様の声が聞こえた気がした。

「す、──すきです、こかげくん!」
「えっ!?」

 浮かんだ笑みは、ちょっといたずらっこみたいだったかもしれない。
 すぐに顔を逸らして、公園への道を、駆け出して。

「ちょ、待って、──霞花ちゃん!」

 距離はすぐに縮まって、当然のように、逃げることなんて叶わなくて。
 ──ああ、折角いたずらっこみたいな表情までしてみせたのに、これじゃまっかなのがばれちゃう!

140805 title//コランダム

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