夢のあとさき
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ガオラキアの森に入ってすぐ教皇の部下の騎士たちに襲われた。ゼロスと教皇の間の確執は相当根深いらしい。ゼロスが神子としての地位についているからだろうか、国が発展して富んでいるテセアラではシルヴァラントと違って教会と神子の関係は複雑なようだ。
追っ手は問題なく撃退したものの、応援などを呼ばれても厄介だ。早くドワーフのところへ行ってしまおうということになったが、ガオラキアの森は薄暗く、何度も道に迷ってしまうくらいだった。しかも魔物も手強い。
「昔はこのガオラキアの森も、普通の森だったんだぜ」
さまよい歩くのに飽きてきたのかゼロスが気晴らしにそんな話を始める。ロイドとジーニアスがふうんと相槌を打っていた。
「ところがな、ある日盗賊が、盗んだ財宝を森の奥に隠したんだ」
急に声をひそめるゼロス。あ、これ怪談の語り口だな、と思いつつ耳を傾ける。いわく、時価数十億ガルドの宝石を隠し、それを狙ってくる連中を片っ端から殺していったのだとか。隠し場所がばれてたら隠したということにならないのでは。
「いつしか森は血で汚れて、殺された人々の怨念が巣食う呪われた場所になった」
「……うぇ……マジ?」
「……ま、またー。どうせからかってるんでしょ?」
ジーニアスの声には覇気がない。そして怪談はクライマックスへ。
「今でも森に入ると、盗賊の幽霊が旅人を殺そうとするんだ。そして盗賊に殺された人々も、仲間を増やそうと……」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ロイドとジーニアスは声を揃えて悲鳴を上げた。何事かと先行するリフィルとコレット、しいなが振り向いたが適当に手を振る。しいなは心得たように肩を竦めていた。プレセアはちらりともこちらを見なかった。
「……今時、こんな話、三歳児だって信用しないって……」
本気でビビる二人にゼロスは呆れたように呟く。
「テセアラの三歳児はずいぶんと荒んでるんだねえ」
「そうかあ?これくらいでビビるなんて、まあからかいがいがあっていいけどよ」
二人は襲ってきた魔物を幽霊だと勘違いして再び悲鳴を上げ、そしてボコボコにしていた。この調子で撃破して進んでほしい。とはいえ先走ってまた変な方向に進まなければいいんだけど。

そんな調子で森を抜け――ようとしたところで、コレットが「足音が聞こえる……」と不安げに呟いた。確かにそんな音が聞こえる気がする。
しかもその音はくだんのドワーフの住んでいる方向から聞こえてくるものだった。また先ほどと同じ教皇の手先か、と警戒する。しいながコリンを斥候にやったところで、急に木の上から人影が降ってくる。
私たちの前に立ちはだかったのは幽霊でも魔物でもなく、メルトキオの下水道で襲ってきた囚人だった。教皇からコレット回収の命を受けたという長髪の彼はどうやらプレセアに用があるらしいが、プレセアのエクスフィアを見た途端驚いた声を上げていた。
「エクスフィア!?おまえも被害者なのか!」
おまえも、という言い方が気になったが、囚人にプレセアが抵抗するそぶりを見せるのに放ってはおけなかった。
「プレセアが危ない!」
真っ先に声を上げるジーニアスに続いて剣を抜く。男はこちらに危害を加える気があるのかどうか判断しかねたが、それでもコレットを狙ってきたという以上は安全ではないだろう。とにかく今は冷静に話ができるとも思わない。
囚人は手枷をつけているせいか、脚で攻撃する独特の武術スタイルで迎え撃ってきた。武器がないにしても動きの予想がつきづらく戦いにくい。こちらの方がリーチが長いはずなのに、向こうも動きが素早く油断したらすぐに懐に入られそうになってしまう。武器を持っていない相手との戦いに慣れていないことを痛感する。
なんとか囚人を倒せたものの、コレットが言った通り追っ手が多く押し寄せてきているらしい。焦った様子で撤退を急かすコリンにしいなは険しい顔で決断を下した。
「……仕方ない。ミズホの里に案内するよ」
「おいおいおい、しいな。ミズホの里は外部に秘密の隠れ里なんだろ?」
かなり閉鎖的な里らしい。そんなふうにゼロスが心配するが、しいなは曲げなかった。
「だけどこのままじゃはさみうちだよ。里に逃げ込むしかないだろ」
しいなの立場が悪くなるのではないかと思ってしまうが、ここで迷っている時間はない。囚人も話を聞けそうなので連れていくことになり、ゼロスが持ち上げられなかった大男をコレットが軽々と持ち上げて運んでいたので少し気の毒になった。


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