夢のあとさき
40

サイバックに戻り、資料館で気持ちを落ち着けてから王立研究院に向かうとちょうどロイドたちが出てきたところだった。泣いたのも少しだったので前髪で隠せばロイドたちも気がつかず不審には思われずにすんで安心した。
研究院では無事プレセアを実験体から解放できる話も聞けたらしい。プレセアのつけている要の紋は特殊なもので、エクスフィアの寄生を長引かせるものと聞いて眉根を寄せてしまった。しかもその計画がエンジェルス計画とは――ますますきなくさい。教皇とディザイアンが繋がっているのは間違いないだろう。もしかしたらクルシスの上も噛んでいるのかもしれない。
「で、ガオラキアの森に住んでいるドワーフに会いに行くことになったのか」
「ああ。要の紋を修理しなきゃいけない」
「なるほど。ちょっとプレセア、見せてね」
一言断ってからプレセアのエクスフィアを見てみるが私にも普通の要の紋との違いは分からなかった。自分の胸元に思わず手を遣る。いや、これはちがうはず……その可能性もあるかもしれない、疑念は拭いきれずに首を振る。
「私にも分からないな。役に立てなくてごめんね」
「……」
プレセアは相変わらず無表情だ。今は早くそのドワーフのもとへ向かったほうがいいだろう。

「レティ、あなた何を調べに資料館に行っていたの?」
戦闘は前衛のロイドたちに任せながらリフィルが訊いてくる。私は危なげなく戦うロイドを見てから用意していた答えを口にした。
「クラトスの言っていたことが気になったから、要の紋について調べようと思って」
「……コレットの要の紋のことかしら?」
「うん。あれはジャンク屋で拾ったものだし、直したといっても本当はちゃんとしたもののほうがいいかもしれない」
「でも……コレットの心を救ったのはあの要の紋なのよ」
それは確かに不安の原因の一つだ。なによりコレットがあのペンダントに執着しているのだ。大人しく手放すとは思えない。
「わかってるよ。とりあえず、コレットのことはリフィルも気にしていてほしい。あの子はすぐにため込むから……」
「あなたもよ、レティ」
「へ?」
そう言われると思わなくて間抜けな声が漏れてしまった。リフィルはやれやれと肩を竦めて杖をくるりと手のなかで回した。
「目が赤いもの。資料館に行ったなんて嘘ね」
「……リフィル」
「クラトスを追いかけていたのでしょう。それでコレットの要の紋の話を聞いた。それだけとは思えないけれど」
リフィルの鋭さに内心舌を巻く思いだった。そんなに分かりやすかっただろうか。だが、肝心なところはバレていないようで沈黙を保つ。それがリフィルの問いに対する肯定でもあったけれど。
「……はあ。頑固な子ね」
「私は……平気だよ」
「そう見せているだけでしょう。あなた、ロイドの前では強がるもの」
それは全く以ってその通りだった。昔からの付き合いだけどぼんやりしているコレットより、このあたりはリフィルに筒抜けな気がする。彼女は長く放浪していた経験のせいか、こういう機微に敏い人だった。
「リフィルだって、ジーニアスの前では強がるじゃない」
「そんなことないわよ」
絶対ある。まあここで蒸し返しても不毛な話しかないから言わないでおく。
「まあいいか。とにかく、私は平気です。本当にダメになったらちゃんとリフィルに言う」
「ギリギリで相談されて困るのはこっちなのよ」
「はいはい」
「レティ!ああもう……」
これ以上突っ込まれても何も言えないだけなので私は襲ってきたグロテスクな植物に斬りかかった。
こればかりは言えない。言えないことは吐き出してもまた多くなって、だれにも頼れないのは前と変わらないじゃないかと胸の奥がぎゅうと痛くなった。


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