着替人形
先程まで友達と一緒に来ていた店へとまた足を踏み込む。女だけで入った時は場違い感が半端なかったけど、男の人と一緒にいるだけで普通に雰囲気に馴染めるのが凄い。ずらっと並べられてる洋服や小物の中からカラ松お兄ちゃんに似合いそうなものを数着、数点一気に持って試着室へ。
「え、そんなに着るのか?」
「うん、そう!えっとね、最初はこれとこれの組み合わせで、次はこれとこれで…」
私がペラペラと喋るのをあ、あぁ、わかった。そうか。などと一生懸命に聞いてるカラ松お兄ちゃんに笑が零れる。みんなの前で兄貴面をしようと頑張るカラ松お兄ちゃんも好きだけど、こうして素で頑張るカラ松お兄ちゃんも普通にカッコイイと思う。
「なぁ、舞鈴。一応着たんだが、ベルトか何かないか?このジーンズ、ウエストがすごく緩いんだ。」
「あ、忘れてた!今もってくるから待ってて!」
「慌てなくていいぞ。」
「うん!」
しまった、忘れていた!と急いでベルトコーナーへ。確かおそ松お兄ちゃんとカラ松お兄ちゃんは足の長さの割にウエスト細いからベルトが欠かせないんだった。あの二人は食べても食べても太れない体質らしい。その癖カラ松お兄ちゃんは筋肉質って、羨ましすぎる!
「カラ松お兄ちゃん、開けていい?」
「あぁ、問題ない。」
ーーーシャッ
目の前のカラ松お兄ちゃんはイイ感じに決まっていた。我ながらなかなかのセンスだと思う。
「はい、ベルト。」
「すまないな、ありがとう。」
「いいえ!」
「……ど、どうだろうか…?変じゃないか…?」
カシャカシャとベルトを付け終わったお兄ちゃんが照れくさそうに聞いてくるから、私まで照れくさくなってくる。まあ、コーデ自体は完全に私の好みだし、思ってた以上に似合っててこんな彼氏がいい!なんて思っちゃったのは確かに照れくさいのだけれど。
「…す、凄く似合ってる!流石カラ松お兄ちゃんだね!」
「本当か…?!普段こんな格好しないから自分ではイマイチ分からないが…舞鈴が似合うというのならば似合っているのだろうな!」
ニコニコと笑うお兄ちゃんに、もしかしたらこんな格好も似合うかも!というインスピレーションがどんどん湧いてきて、次の服に着替えてる間にまた洋服を漁る。お兄ちゃんごめん、今日は半日着替人形になってください。
「舞鈴、これはどうだろうか…?パンツが少し大きすぎないか?」
「そういうパンツなの!いいよ!似合ってるじゃん!」
サルエルパンツも知らないのか。お兄ちゃんは体のラインがでる服が似合うからダボッとした服はあまり着ないんだろうなぁ。おそ松お兄ちゃんは普通に着てるのに。
「じゃあ次これ!」
「えっ、まだ着るのか?」
「うん!だってカラ松お兄ちゃん何でも似合うんだもん!」
「フッ、俺の魅力は自分をも苦しめるのか…やはり俺はギルトガイ…」
「じゃ、それ着てきてね!」
「えっ。」
カーテンを引いて無理やり試着室へ戻す。急にカッコつけ始めたお兄ちゃんのイタイ発言はスルーが一番。カッコつけるお兄ちゃんは好きだけど、流石にイタイ発言は受け止めきれない。
「次はこれも!」
「え、そんなに着るのか?」
「うん、お願い!」
「…わかった。」
そんなやり取りを数時間と数軒に及んで繰り返していたらもう7時前になっていた。カラ松お兄ちゃんも着替えてばっかで疲れた顔をしていたから、少しやりすぎたかなと反省。でも、今まで来た服の殆どは買ってくれてたからなんだかんだ気に入ってくれたのだと思いたい。てか、全部でいくらだったんだろう。絶対高額だったハズ。
「…重くない?」
「ん?あぁ、荷物なら大丈夫だ。鍛えているからな!」
「そっか…ところでさ、それいくらしたの?」
「フッ、そんなこと舞鈴は気にしなくていいんだぞ。」
「そ、そっか。」
そうやっていっつもはぐらかされる。カラ松お兄ちゃんに限った事じゃなくて、みんなそう。私は裏の仕事はバイト感覚で強制じゃなくていい、という条件の代わりに給料制って言うかお小遣い制でお金をもらってる。でもお兄ちゃん達は普通にそれが本職で稼いでる。だから実際にみんながいくら稼いでるのかっていうのは、当然バイトの私には分からない。ただ、バイト料からして相当稼いでいるのは何となくわかる。だからまあ、気に入って買ってくれたのならお金は気にしなくてもいいかなって。
「…ありがとうね。」
「え?なにがだ?」
「ふふっ、秘密!」
「秘密か…そう言われたらもう聞けないな。とても気になるが。」
少し腑に落ちない顔で隣を歩くカラ松お兄ちゃんに、デートに付き合ってくれてありがとう。と心の中で呟く。
「さ、早く帰ろう!みんなが待ってるよ!」
「あぁ、そうだな。」
今日の晩ご飯は何かなぁ。すき焼きとかだったらいいなぁ!あ、お兄ちゃん達はアイス食べてきたんだよなぁ。私たちの分も買ってきてくれてるかな?まあ多分私の分はあるけど、カラ松お兄ちゃんの分はないんだろうなぁ……私の半分あげよう。
「「ただいまぁー!」」
「「「おかえり。待ってたよカラ松。」」」
「えっ…」
「何一人抜け駆けしてんだよ!!」
「舞鈴と二人で黙ってどっか行ったバツ!」
みんなが思い思いにカラ松お兄ちゃんに殴ったり蹴ったり……出来てないけど。そりゃおそ松お兄ちゃん以外当たるわけない。だって事実一番強いのはおそ松お兄ちゃんで二番目はカラ松お兄ちゃんだもん。
「ちょ、カラ松兄さん!何で避けるの?!避けたら意味無いじゃん!」
「いや、だって当たったら痛いじゃないか。」
「「「痛くなきゃバツにならないでしょ!」」」
おそ松お兄ちゃんだけはカラ松お兄ちゃんをバシバシ蹴っている。
「ちょっ、おそ松…痛っ!痛い痛い!」
「抜け駆けしたお前が悪いんだからなっ!」
わーわーぎゃーぎゃー、今日も松野家の六つ子はうるさくて元気です。ただ、7時前だし、近所迷惑だよね。
「あんたたち!うるさい、ご近所迷惑よ!やめなさい!!」
「「「か、母さん…!」」」
ほらね、怒られた。まあ、怒られても気にしないのがお兄ちゃん達なんだけどね。
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