これは数日前に遡った話だ。


ーーー数日前



「フッ、今日もバッチリ決まってるだろう?」




誰も俺に近づいてこようとしないこの橋で、今日もまた独り川を眺めながら呟く。この橋を通る人みんなが俺を遠ざけて歩いているのには薄々気づいていたし、カラ松ガールがこの橋に現れるとも今では昔ほど強く信じて待っている訳では無い。しかし、数年間してきたことというのは怖いもので、もう習慣化してしまっている。用もなくこの橋で佇むという行動が、俺の一日の行動の中にしっかりと組み込まれている。しかし、用もない橋でずっと佇んでいるわけにも行かないし、日も暮れそうだからそろそろ帰ろうと家路の方を向く。




「あの…」

「……」

「あのっ!」

「…え?お、俺のことか?」

「はい!」




とても綺麗な顔立ちの大学生くらいの女の人が話しかけてきた。なんだこの状況。




「お、俺になにか用か、カラ松ガール?」




全然決まらなかった。吃ってる。声も上ずってる。




「カラ松ガール?」

「ああ、いや。気にしないでくれ。それより俺に用があったんじゃないのか?」

「用……いえ、特に用があった訳では無いんですけど……」




用があった訳じゃない?なら何故話しかけてきたんだ?もっとこの状況が分からなくなった。




「良ければどこかでお茶でもしませんか?」

「……」

「あっ、いえ!無理にとは言わないので、良ければ…」

「いいぞ。行こう。」

「え?あ、ありがとうございます!」




ふわふわした可愛らしい印象の子だ。ふにゃりと微笑んだ彼女の笑顔に、今まで感じたことない感情が押し寄せてきた。この感情は一体何なのだろうか。この子と話していればなにか分かるのだろうか。



ーーーカランカラン



「いらっしゃいませー!2名様で宜しいですか?」

「ああ。」

「それではお席にご案内いたしますね。」




特に何を話すわけでもなくお店まで来てしまった。内心俺はこの状況にドキドキしっぱなしで会話を気にする余裕がなかったんだ。