以上が数週間前の話だ。それ以来彼女とはたまに連絡を取るくらいで会うことはしていない。俺はニートで毎日時間を持て余しているが、彼女はれっきとした社会人で忙しいだろうし、俺から誘っていいものかと迷う。迷った挙句、誘えずじまいなのだ。



「なぁー、カラ松。」

「なんだ、おそ松兄さん?」

「暇だしさー、釣りにでも行かね?」

「…あぁ、いいぞ。」



隣の部屋にいるトド松と一松も誘うか?いや、二人で行こう。なんて会話をしてふと思う。そう言えばおそ松兄さんと二人で出かけるのは久々だな。ほかの兄弟とはちょくちょく二人ででかけているが、兄さんだけは最近二人で出かけてなかった。何故だろう?そんな疑問がふと頭をよぎったが、忙しかっただけだろうと思ってあまり深くは考えなかった。



「しっかし、この釣り堀ほんとに釣れんのかねぇ?」

「どうなんだろうな。俺は釣れたことないが。」

「…カラ松、お前餌何つけてんだっけ?」

「手紙だが?」

「釣れないの当たり前じゃん!魚の餌が手紙って…ブハッ!」

「なぜだ?魚に愛をしたためたのに…」

「イタイイタイ!」

「だ、大丈夫か兄さん?!」



だ、大丈夫、その痛いじゃないから!と言って笑い転げる長男おそ松。



「カラ松、お前やっぱりおもしれぇよ、ククッ…!」

「面白い事を言っているつもりは無いのだが…」



何がそんなに面白かったのだろうと不思議に思いながら自分の竿を見ると、引いている。え、俺の竿引いてる…?この釣り堀、魚いたのか。慌てて竿を引くが少し重い。



「え、なにもしかしてカラ松の竿引いてんの?」

「そうみたいだ…」

「なんで?!なんでラブレターで魚釣れるの?!」




思いっきり竿を引くと空中へ、竿に引っかかった魚が飛び出してきた。



「つ、釣れた…」

「…まじか。」



兄さんも俺も放心状態だ。ここの釣り堀で何年も釣りをしてきたが一度もつれたことはなく、釣りという釣りを一度も経験したことなかった。だから俺達は、目の前に魚がいることに驚きを隠せなかった。



「俺も釣れねぇかなぁ…」

「釣れるといいな!」



流石に釣れると思わなかったので手紙はあの一枚で全てだ。しょうがなく普通の餌をつけ竿を池へと落とす。連れた魚はどうやら鮎らしい。



「てか、手紙で釣れる魚なんて聞いたことねえよ!」

「フッ…流石はマイレター!俺の愛が魚へやっと届いたか…!」

「釣れねぇー!!」

「あ、引いてる…」



竿を引っ張るともう一匹、同じ魚が釣り上げられた。地べたでピチピチしている魚をバケツの水へと入れてやる。優雅に泳ぐ魚は可愛いなぁなんて思った。



「あー!もー!釣れねえ!やめだやめ!」

「えっ、あ、もう終わりか?」

「確かそこで魚の焼き場所あっただろ。そこでその魚食って帰ろーぜ?」

「そ、そうだな!」


兄さんが途中で飽きたせいで、結局連れた魚は俺の釣った二匹だけだった。だがまあ、初めてあの釣り堀で釣って焼いて食べた魚は美味しかった。釣れる釣り堀もたまには悪くない。いや、釣れなきゃ意味ねぇからな?なんてやり取りをしながらみんなが待つ家へと帰った。