退院して数日後。私はたまたま松野さんを橋で見かけた。もう会うことはないかもしれない、そう思って病院から送り出したけれど、こんなにも早く再会できるなんて奇跡だと思った。声をかけよう。勇気を出さなきゃ。




「あの…」

「………」

「あのっ!」

「…え?お、俺のことか?」

「はい!」

「お、俺に何か用か、カラ松ガール?」

「カラ松ガール?」

「ああ、いや。気にしないでくれ。それより俺に用があったんじゃないのか?」

「用……いえ、特に用があった訳では無いんですけど……」



どうしよう。用はないのに話しかけたの、やっぱり迷惑だったかな?でも、せっかくのチャンスだし、もう会えないかもしれないし、無駄にしたくない。




「良ければどこかでお茶でもしませんか?」

「……」

「あっ、いえ!無理にとは言わないので、良ければ…」

「いいぞ。行こう。」

「え?あ、ありがとうございます!」




案外あっさりと了承してくれてよかった。あ、でもこれ逆ナンだと思われてないかな?逆ナンのつもりじゃなかったんだけど…


ーーーカランカラン



「いらっしゃいませー!2名様で宜しいですか?」

「ああ。」

「それではお席にご案内いたしますね。」




ああ、会話もせずに着いてしまった。私としたことが!松野さん、不審に思ってないかしら?変な人だって、不気味がられてないかしら?想像すればするほどネガティブになっていく自分が嫌になる。大丈夫、松野さんはそんな人じゃない!




「あの…松野さん、ですよね?」

「…?あぁ、確かに俺は松野カラ松だ。」

「やっぱり!そうだと思ったんです!」

「え、あぁ…いや、すまないが貴方の名前は…?」




目の前であたふたする松野さん。あの時の後継と被って見えて、ああ松野さんだって嬉しくなった。




「私は綾崎舞鈴です。松野さんの入院していた病院では看護師をやっているんですけど…」

「病院…看護師……えっ!もしかして俺がお世話になった…」

「思い出してくれてありがとうございます。」

「あぁ…こっちこそ声をかけてくれてありがとうな。」




ブラックコーヒーに口をつけながら喋る松野さん。と思ったが一口飲んだきり全然飲んでいない。




「コーヒー、飲まないんですか?」

「え、いや…飲むぞ?」




また一口だけ口つけてコーヒーを置く。ああ、そっか!砂糖入れてるところ見られるのがいやなのね。




「すみません。すこしお手洗いに、行ってきますね。」