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「おーい、綾崎ー!水くれへんかー?」
今日の私はイマイチ仕事に精が出なかった。というか他に気を取られて集中できなかった。
「おーい、綾崎ー?」
すでに何者かによって私の居場所が突き止められているということが不安でたまらない。
「綾崎ー?」
でも今日半日様子を見て見たが、芸能界側には連絡はいってないようでなんの音沙汰も無い。だけどそれが逆に怖かった。そいつの目的が分からない。
「なあ、聞いとるか?」
『うわっ!び、ビックリさせるなよ…』
「あ、すまん。ずっと呼んどるのに聞こえてへんようやったから…」
うわー、ずっと呼ばれてたのに気づかないほど考え込んでしまっていたのか。マネージャーとしてきてるのにこれでは申し訳ない。今はこのことは忘れて集中しなければ!
『え、マジで?それは俺が悪かったな。で、用は?』
「んー、何やったっけ?………あ、せや。水や水!」
『水だな……ほらよ。謙也はもう試合終わったのか?』
「さっき終わったばっかやけどな!」
そうは思うけど、ニコニコ話してくる謙也が、今の私にはすごく羨ましかった。あぁ、ダメダメ、集中集中!頬を叩いて気合を入れ直す。
「おっ、気合十分やな?」
『まーな。集中しなきゃだろ?』
「せやな。まあ、あんま気張らんと頑張りや!」
『サンキュ、謙也。』
ニッコリと微笑む。謙也からの反応がない。いつもなら“おうっ!”とか元気良く返事が返ってくるはずなのに。
「え、あ、おう!」
『……謙也?お前顔赤いぞ?』
「い、いやっ!何でもあ、あああらへんよっ!?」
『熱でもあるんじゃ…』
熱を図ろうとひたいに手を伸ばした。が、ご自慢のスピードでさっと躱されてしまった。
「だ、大丈夫や!ほなな!」
『え、あ、おい…?』
避けられた。確実に逃げられた。なんなんだ謙也は。せっかく熱でもあるんじゃないかと心配してやったのに。
『変なやつ。』
あぁ、そういえば、合宿もあと一日で終わりか。なんて考えながらまた仕事に取り掛かる。
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