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合宿も後半を迎えて2日目の朝。合宿所に一本の電話がかかってきた。

《plululululu...》

『はい。』
「この合宿所にいる“あいつ”を今すぐ芸能界へ引き渡せ。」
『……お前、誰なんだ…?』
「あいつ、昴美陽を芸能界へ……」

《ツーツーツー》

正体不明の人物からの突然の電話。幸い受話器をとったのは昴美陽本人だったから良かったものの、合宿所の誰かが受話器をとっていたらマズイ状況になっていた。だが、この状況も相当マズイ。正体不明の誰かが、私がここにいるという情報を掴んでいる。芸能界へ引きずり戻される。折角普通の中学生生活が楽しくなってきたのに、今ここで芸能界へ戻りたくはない。こいつらと、離れ離れになりたくない。

「早えじゃねーか、綾崎。」
『あ、跡部。はよ。』
「誰から電話だ?」
『間違い電話だったよ。朝っぱらから迷惑な話だよなー、はは。』
「……そうか。」

多分跡部は気づいてる。間違い電話じゃなかったことに。でも、話を合わせてくれる跡部にちょっといい奴だなって思った。絶対言ってやんないけど。

「おはよーさん!」
「忍足か。」
『はよ、謙也。』

「ふあ〜ぁ……あ、舞鈴。」
『あっ、光!はよーっす!』
「はよ…」
『相変わらず朝はテンション低いんだな。』
「低体温、低血圧なんすよ…」

低体温、低血圧ってこんなにも朝に弱いのか。まあ、早起きしてくるし問題無いといえばそれでお終いだけど。逆に謙也は相当朝に強いのだろう。昼間にも増してうるさい気がする。そんな謙也の声に起こされたのか、はたまた目覚ましをセットしていたのか。たぶん謙也の声に起こされた者がだいぶ多いとは思うが、ぞくぞくと部員たちが起床してきた。

「舞鈴、さん…おはよ……」
『あ、リョーマ。はよ!すげぇ眠そうだな。』
「ん、もうちょっと寝たかったッス。でも…そとだんだんザワザワしてきたから…」

本当ごめんリョーマ。何で私が謝ってるのかわかんないけど、でもごめん。多分きっとその原因を作ったのは謙也だとおもう。

「謙也さんがうるさいからみんな起きてきはってしもたやないですか。」
「えっ、俺?!俺の所為なん?!」
「他に誰の所為やっちゅーのです?」

いいおもちゃを見つけたような子供の目で謙也を弄る光。相当なドSだよね。しかもそれを間に受けて落ち込む謙也は純粋すぎるっていうかなんていうか。いいコンビだと思う。こんな楽しい空間にいても、やっぱりさっきの電話が引っかかって、不安でしょうがない。みんなと離れたくないよ。

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