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「あっちー!はぁー、水分水分っと…」
「ん?これか?まー、飲めりゃなんでもいっか。………んぐっ!」

《バターン》

*****

『あちぃよ光ううう!』
「暑い言うてると余計暑なりません?」

相変わらずの蒸し暑さに、光と二人で涼んでいた。この時間がきっと一番幸せに違いない。誰にも邪魔されずにゆっくりできる。当たり前だが、今は合宿中でありみんな特訓に励んでいる真っ最中だ。光は見つかったら怒られるに違いないが、それでも木陰を選んだようだ。おかげで私も光と一緒にいれて万々歳なわけなのだが。

《バターン》

『な、なんだ!?』
「何が起こったんやろ……」

何かが倒れるような音が、あちこちから立て続けに聞こえる。普通だったら興味と心配と出来心とかで見に行こう的な雰囲気になるだろうが、突然すぎて恐怖心から全く動けなかった。コワイ。

「た、たたた大変やぁぁああああ!」
『お前の顔の方が大変だぁぁああ!』
「舞鈴酷っ!て、せやなくて!ほんまに大変なんやて!なあ、白石!」
「せや。まあ確かに謙也の顔も大変なことになっとったんは否定せえへんけど。」
『でたな白石…!』
「なんで俺だけ邪気に扱われなアカンねん。」
「そんなのはどうでもええねん白石!」

今日の収穫。テンパった謙也はいろいろと酷い。白石より上の立ち位置に付ける。以上!
でもどうしてあんなにテンパっているのだろうか。いや、いろいろ思い当たる節はあるけれども。さっきの音とか音とか音とか。

「テンパりすぎっすわ。」
「財前!自分は無事やったんやな!」
「謙也さんに心配されるほど弱くないっすわ〜。」
『で、大変って何が大変なんだ?』
「それがな、ぶっ倒れとる人続出やねん。」
「せや。謙也と俺でドリンク取りに行っとる間にな、白目向いて倒れとる人ばっかになってもうてん。」
『さっきの音ってじゃあ…』
「そうみたいっすわ。やっぱ人が倒れとったんすか。」

つまりはこうだ。喉の渇きを訴える人が多くなったから、一試合分待機だった四天宝寺組の謙也と白石がドリンクを取りに行くことになった。マネの私を探していたが見つからず、しょうがないからと引き返したら、コートが無残なことになっていた。なんか、この話だと私にも責任があるようなことになる。なんでだろう、すごく不愉快だ。

「そんでな、倒れとる人の近くには必ずこのボトルが転がっててん。」
『謙也、それ見せて。』
「ん?あぁ、おん。」
「舞鈴、何か知っとるんすか?」
『いや、全然。だたの興味本位だ。』
「知らんのかいっ!」

謙也の鋭いツッコミを華麗にスルーして光の方に向き直った。
はずが、なぜか目の前にリョーマの顔がある。え、ナニコレどういう状況。

『っうわ!』
「ちーっす。」
「越前邪魔や。どけ。」
「嫌だね、善哉先輩。」
『財前だけどな。』

リョーマの後ろには青学のみなさんまでいらっしゃった。ていうかなんで青学組は全員助かってるのだろうか。立海と氷帝は全滅。四天宝寺もこの3人以外は全滅。青学、驚異だ。

「俺たち、その原因知ってるから。」
「ていうかむしろ、俺たちの学校に原因あるっすよねぇ、乾せーんぱい?」
「先輩をからかうんじゃねぇ、桃城。」
「あぁ?やんのかぁ?」
「上等だぁ!」
「海堂、桃城。その辺でやめておけ。手塚から外周20週の刑が下る確率99.3%だ。」

乾先輩と呼ばれたその人が、何か知っているのかもしれない。というか、まず間違いなく原因を作った張本人だろう。そんな気がする。オーラがなんかコワイから。

「乾………そうか!原因は乾くんの作ったあのドリンクやな。」
「流石は白石。新作の試作品を試させてもらっていた。まさかここまで威力があるとは思っていなかったが。」
『???』

疑問符とお友達状態だった私に、リョーマが説明を加えた。要するに、とりあえず食べても問題のないものを乾っていう人なりに調合してできたドリンクを乾汁と呼んでいて、その乾汁の新作の試作品を飲んだ人たちがあまりのマズさと刺激の強さに倒れこんだらしい。なんて迷惑な話だ。試作品をその辺に放置するな。

「そして、一つ言っておこう。立海は全滅していない。」
「どういうことや、乾くん。」
「立海は………」
「ふふふ……坊やじゃないか……ふふ、君も俺と一緒に人を食べようよ〜」
「人食いゾンビ化した。」
『うわぁぁあああああ!何だよそれ非科学的すぎるだろぉおおおお!』
「ねー、待ってよ〜。」
「ゾンビ化とか聞いてへんわぁぁあっ!」

こうして気持ち悪い動きをする立海ゾンビ組と、地面になだれ込むぶっ倒れ組、生き残り組との必死の追いかけっこは朝まで続くのであった。乾とかいう人がもう少し早く消化剤を作ってくれればこんな大変で怖い思いはしなくてすんだと思う。そしてこの、波瀾万丈な合宿はまだまだ続く。

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